「ねえ話ってなんなの?私この後友達と寝落ち通話する約束してたのに」
「すまんな一華、折角の大切な時間を割いてしまって。だが我慢してくれ、これもお前の将来の為なんだよ」
「またそれ〜?」
ほっぺを膨らませ、ムスッとする一華さんに父は微笑むと優しく宥めた。
そんな様子を私は黙って静観する。
昨日の夜に父から大事な話があるとあれほど言われていたと言うのに。
「それで貴方、私達に大事な話とは一体何なんですの?」
由紀恵さんの言葉で父は顔を正すと、懐からは一枚の封筒を取り出して机上へと置いて見せた。
「なんですの?これ」
どうやら知らないのは私だけでは無かったらしい。
由紀恵さん達も不思議そうな目で封を見つめると父からの言葉を待つ。
「…一華」
「なあに?お父様」
「お前に縁談の申し込みが来ている。これはそこからのものだ」
どうやら封筒の正体は一華さんに向けて送られた縁談についてのようだった。彼女を見れば酷く驚いた様子でそれを見ている。まあ無理もない、彼女は私と同じ十七歳。その年若さで突然のように縁談話をされても困惑するのは当然のこと。
「縁談?この私に⁈」
「ああ。先方からは是非、お前を嫁にとのことだ」
「まあ!一華に縁談が!?それで一体、そのお相手の方というのはどこの資産家なのかしら?」
動揺して何も言わない一華さんとは対象に由紀江さんは身を乗り出すと興奮気味に声を荒げた。
「まあ待て、話はここからだ。実はなその縁談相手と言うのが」
鬼頭家だ。
「え?」
「は?」
「?」
由紀江さんと一華さんの声が重なり合った。
あり得ないと言わんばかりに目を見開く由紀江さん。
暫く封筒を見つめていたが次第に体をブルブルと震わせていく。
一体どうしたというのか。
鬼頭家と呼ばれた家。
その家に何か問題でもあるというのか。
「あ、貴方…。そんな、そんな冗談でしょう?」
「はぁ、だから話したくなかったのだ。だが次の代がこの代と重なってしまった。こればかりは何があろうと絶対に断ることは出来んのだ」
父はため息ながらに私を見た。
「時雨、お前には関係の無い話だと思っていたが事態が急変した。一華も由紀江も、これから私が言う話を黙って聞きなさい」
父は深刻な顔をすると事件の発端となった詳しい経由を話し出した。それは私にとってなんとも奇妙で目を疑う内容だった。