「時雨様、当主様がお呼びです」
次の日の夜、台所で後片付けをしていた私に使用人の方が声を掛けた。
そう言えば昨日、父に話があると言われていたな。大事な話があるため必ず同席しろと言われていたのを思い出す。
「直ぐに伺います」
汚れた手をタオルで拭き取ると付けていたエプロンを外す。
「前回に行かれたお部屋とは違いますので私がご案内致しますね」
「ありがとうございます」
普段使用人の生活を送る私は本家の方にはあまり出向かない。そのためか本家側の構造には疎かったため非常にありがたかった。使用人の後に続いて長い廊下を歩いて行く。
「(本当に広いお屋敷だ)」
歩く度に通り過ぎていく、幾つもの同じ形をした窓ガラスを横目にそう感じる。掃除をしても数人程度では全ての場所まで一日だけでは手が回らないだろう。入り組んだ迷路のような廊下を進み、暫くして使用人は一つの部屋の前で立ち止まった。
「当主様、時雨様をお連れしました」
「入れ」
中から声がかかると私は扉を開ける。
入ると中央には長机と椅子。
天井からはシャンデリアが吊るされており、床は絨毯がひかれた洋風部屋だった。前回までの部屋とは打って変わり、何もここは全ての場所において和風な造りが施されている訳では無いようだ。
「来たか。ここに座りなさい」
父から指定された席へと腰を下ろす。
ふと目線の先には先に来ていたのか由紀江さんと一華さんの姿が確認できた。