久野家に引き取られ七年も経てば次第にこの家の内情が分かってきた。
まずここは、やはり他の家とは違う。
何かしら引っかかる点も多かった。
外から来る訪問者や父の仕事ぶりから読み解けば、久野家では決まった家以外との他者との交流が必要以上に行われてなかった。外部との接触領域を念入りに絞っているのか本当に仕事をしているのかを疑いたくレベル。
そして何より一番不思議だったのは一華さんの存在だ。
父もどこか他の人とは違う雰囲気があると出会った当初から感じてはいた。
でもそこまでではない。
だが一華さんの存在は私を必要以上に刺激した。
彼女の容姿は他の人と比べても遥かに優れていると思う。
長く美しい髪を靡かせて持ち前の仕草と容姿でアタックすればそこらの男性なんてイチコロだろう。
私が側に控えていたある日での出来事。
急に立ち止まった彼女は遠くをじっと観察すれば、手に力を込めては何かを念じていた。
そんな彼女は月に一度、決まって行く場所がある。
久野家では関係者以外、その立ち入りを一切禁止とするある部屋。
そこへ父に連れて行かれては暫く中に篭ったまま出てこないのだ。
何をしているかは分からない。
でもあの部屋に行く時は決まってどこか不服そうにしていた。
そういった日は私へのあたりも強くなる。
着付けられている服も普段の着物とは違う。
白い生地をベースとした、いかにも昔の中国で流行っていたような仙女服のような格好。
彼女が着れば有名な女優さんがコスプレしているのではと勘違いしてしまいそうだったが不思議だった。
それは夜から始まって次の日の夜まで続いた。
次に彼女がその部屋を出てきた時はいつも顔をゲッソリと窶れさせていた。
まるで何かに生命を吸い取られたかのように。
自分が久野家に来た日から既にそのような行為は行われていた為、特に自分から干渉をするような事はしなかった。
父も私には話す必要が無いのか何も言ってくれなかった。
わざと言わないだけかもしれないが。
だが嫌でも感じる。
年々増えてゆく彼女から発せられる何か強力な気配への塊。
私は時々、一華さんの存在が——この久野家の存在が不気味に感じるのだった。