自転車を漕ぎながら、瓢箪山のドーナツ屋さんに向かう3人。

「なんでこんな話を思いついたんだよ、和樹?」雅彦が軽く首をかしげる。

和樹は肩をすくめて答える。「映画好きだからさ。タイムトラベルとか運命の話ってのが面白いって思ってさ。それで、舞台に落とし込んでみたら、観客も一緒に引き込まれるかなって。」

美咲も口を挟んだ。「私もそのアイデア、すごく良いと思うわ。でも、和樹くんって、脚本や監督といったクラスの中心になるタイプじゃないけど大丈夫?」

和樹はため息混じりに答えた。「まあ、でもその通りだよ。実はちょっと不安なんだよ。」

雅彦は笑いながら答えた。「おいおい、和樹。不安なんて言ってんじゃねえよ。お前の斬新なアイデアのせいでクラス全員がワクワクさせられてるって言うか、俺たちの頭をフル回転させられてんだからな!おかげで授業が頭に入んないよ。」

美咲は微笑みながら、「そうね、和樹くん。私たちが一緒にサポートするから、きっと素晴らしい舞台ができるわよ。」


雅彦はにやりとして和樹を見つめながら言った。「そうだ、俺たちの頭をフル回転させるのは、和樹、お前の役目だからな!」






三人のクラスが舞取り組んでいる舞台、タイトルは「ビジタンテ・デル・パサド(過去への訪問者)」。主人公が古びた腕時計を手に入れ、その謎めいた力に導かれる形で自身の過去にタイムトラベルするという物語。主人公が自身の過去にタイムトラベルし、母親との再会を試みるというテーマが描かれている。過去と現在が交錯する中で、人間のぬくもりや家族のきずなが美しく浮かび上がっている内容である。





しばらくするとドーナツ屋さんに到着し、甘い香りが漂ってきた。ショーケースもなく、カウンターもない。自動販売機の前で、プレーンドーナツの券を買うシステムが設置されている。

「あ、すみません。ドーナツ、30個注文します。クラスのみんなにも持って帰るつもりなんです。」和樹がマイク越しに声をかける。

すると、マイク越しに聞こえてくるお兄さんの声。「了解しました。ドーナツ、30個ですね。10分ほどお待ちくださいね。」

一瞬のひととき、ドーナツが出来上がるのを待つ間、お兄さんとの会話が続いた。

「学生さんですか? いや、どちらにせよ、たくさんのご注文、ありがとうございます。」

美咲が話しかける。「ちなみに今、文化祭の準備もしてるんです。舞台を担当してて、結構バタバタしてるんですよ。」

「お疲れ様ですね。頑張ってください。舞台って楽しそうですね。どんな内容なんです?」

美咲が嬉しそうに説明する。「うちのクラスでは『ビジタンテ・デル・パサド』っていうスペイン語で『過去への訪問者』っていうタイトルの物語を上演するんです。主人公が過去の自分の母親に会いに行くというテーマで、感動的な展開が盛りだくさんです。」

お兄さんの声が興味深げに「なるほど、それは素晴らしいテーマですね。楽しみにしています。」

雅彦がニヤリと笑いながら加わる。「それと、俺はバンドを始めたんだ。いつかメジャーデビューして、このドーナツ屋さんのために歌を作るからな。お兄さんもぜひ聞いてくれよ。」

お兄さんの声が温かさを含んで「素晴らしい目標ですね。その日が楽しみです。」

三人はドーナツを手に入れ、美味しそうに見つめながら微笑む。

美咲が嬉しそうに言う。「シンプルだけど、これがまたおいしいんだよね。」

雅彦がうなずいて「そうだな、たまにはこんなシンプルなのもいいな。」


お兄さんが帰り際に声をかけてくれた。「文化祭、頑張ってくださいね!」

三人は微笑みながら頷いた。「もちろんです!僕たち、全力でやります!」

美咲が控えめな口調で続けた。「お兄さん、もし都合が合えば、文化祭の日にお越しいただけたら嬉しいです。みんなで楽しい時間を共有できたらいいなと思います。」

お兄さんは優しく答えた。「もちろんですよ。楽しみにしています。それに、雅彦くん、君の歌、楽しみにしてますからね。」

雅彦は得意気に胸を張って宣言した。「当然。オリコン一位ものの歌で、この店の名前を全国に広めてみせるよ!」

こうして、お兄さんは三人の舞台を見に行くことを約束し、雅彦には将来、ドーナツ屋さんをテーマにした素敵な歌を聴かせてもらうことを約束した。

その温かな励ましの言葉を胸に刻んで、三人は幸せな気持ちで学校に向かった。