商店街を抜け、坂道を下ると黄色い看板が和樹の目に飛び込んできた。「どぼーず」と書かれたその店には、バンドマンの雅彦が茶髪をなびかせて笑顔で立っていた。

和樹は雅彦に驚きつつも嬉しさを隠せない様子で、雅彦の外見の変化を見つめた。以前よりも髪が長くなり、少し成長したように見える。

「おっ、久しぶりだな!」

「ああ、雅彦。変わったな、そのスタイル。」

「そうだろう?バンド活動が順調でさ、新しい自分を見つけた感じだよ。」

店の扉を開けると、鈴の音が軽やかに鳴り響く。二人は店内に足を踏み入れ、壁で仕切られた個室へと案内された。個室の入り口にはカーテンがあり、内側からは他の席が見えず、プライベートな空間が広がっていた。

「最近どう?」

「バンドのことで忙しいけど、やりがいがあるんだ。大学生活はどうだ?」

和樹は充実してそうな雅彦に自分も楽しんでいると強がるような表情を見せた。「友達との映画サークルの活動も楽しいんだけど、なんか物足りない気がしてさ。高校の時の文化祭みたいに熱くなれないんだよな。なんか懐かしいな。」

雅彦は微笑みながら、和樹の気持ちを理解しているようにうなずいた。「それなら、たまには俺の音楽の話でもしようぜ。俺たちのバンドのこととか、新しい曲とかさ。和樹の大学での活動に熱を込めることができるかもしれないしな。」

和樹は雅彦の言葉に安堵したような表情を見せ、「そうだな、バンド活動の進展とか、新しい曲のこととか、是非聞かせてくれよ。」

「実は最近、俺たちのバンド、本当に順調でさ。新曲がプロデューサーやレコード会社の目に留まって、メジャーデビューの話が具体的に進んでるんだ。」

和樹は驚きと喜びを隠しきれず、「メジャーデビューか、それ、すごいな!おめでとう!雅彦の音楽が広く世に知られる日が近づいてるんだな」と祝福の言葉を送った。

「でもまだまだ最終的な確定ではないんだ。だから、ひとつでも多くのライブをこなして、自分たちの音楽をもっと多くの人に届けたいんだ」と力強く語った。

雅彦は高校時代からバンドを始めており、その情熱は未だに色褪せることがなかった。高校卒業後、彼は就職や進学をせずにプロのミュージシャンになることを決意し、アルバイトをしながらバンド活動に打ち込んでいた。

その決断は周囲からの理解を得るまでには時間がかかったが、雅彦は自分の音楽に確かな自信を持っていた。日々の努力と情熱でバンドは着実に成長し、ライブの数も増えていった。

彼の情報は音楽シーンでも評価され、ついにプロデューサーやレコード会社の目に留まることとなり、メジャーデビューへの道が開かれた。

雅彦は自分の夢を追い求める姿勢に誇りを持ち、常に向上心を持ってバンド活動に取り組んでいた。周りの仲間たちと共に、新しい曲作りやライブの準備に励んでおり、その情熱は和樹にも伝わってきた。

「そういえば、美咲のことだけどさ」と雅彦が和樹に話しかけた。

「最近、美咲のmixiを見てたんだ。あいつ、専門学校で順調に勉強してるみたいだよ。そしてついに、美容師の国家試験の準備をしているんだって。それにさ、瓢箪山のTSUTAYAのバイトを辞めたって書いてあったぞ」と雅彦が嬉しそうに語った。

和樹は美咲の名前が出て戸惑いの表情を見せながら、雅彦に向き直った。

「美咲、国家試験の準備をしているんだ?」和樹は驚きを抑えきれずに尋ねた。

雅彦は微笑みながら頷き、「そうなんだ。あいつ、美容師になるために頑張ってるみたいだよ。まだ卒業はしてないけど、自分の夢に向かって努力してるんだろうな」と話した。

「そっか、美咲も頑張ってるんだ。それに国家試験の準備って、大変そうだな」と和樹は戸惑いながらも美咲の努力を讃えた。




美咲は和樹と雅彦の高校時代の同級生で同じクラスだった。彼女は美容師になる夢を持ち、高校卒業後は美容専門学校に進学し、美容師の国家試験を受験するために日々一生懸命に勉強に励んでいた。

最近、美咲は国家試験の準備に全力を注いでいるようで、そのために勤めていた瓢箪山のTSUTAYAのバイトを辞めた。瓢箪山は3人が通っていた高校の区域内に位置しており、和樹の家からは自転車で約10分ほどの距離にある。その地域の商店街は昼は活気に満ちあふれ、地元の人々で賑わっていた。






和樹と雅彦はどぼーずを出て、瓢箪山の商店街を歩く。時刻は午前1時を回ったところで、外は静寂に包まれ、真っ暗な夜が広がっている。商店の軒並みは閉まり、静かな街並みが広がっている。

二人の足音が商店街に響き、和樹は静かな夜に響くその足音を耳にしながら、涙目になっていた。なんとなく美咲の匂いがしたような気がし、その思いに心を揺らす。

「和樹、大丈夫か?」雅彦がやさしく声をかける。

「うん、なんとなく…懐かしい気持ちになってさ」と和樹は微笑みながら言った。

彼は美咲との楽しい時光を思い出す。商店街を歩きながらの笑い声や、手に持ったドーナツを楽しむ彼女の姿が蘇る。美咲との過ごしたあの幸せな瞬間が心に焼き付いている。

夜の静寂に包まれながら、和樹と雅彦は静かに商店街を歩き続けるのだった。