「選手として生活してた時は、練習がしんどくて逃げ出したくなることが何度もあったのに……。走れなくなって放課後の予定がぽっかり空いた今は、あのつらさや苦しみすら宝物だったように思えるんだ」


輝先輩の言葉は、まるで私の気持ちを寸分違わず代弁するようだった。
だけど、なにか話せば涙が零れ落ちてしまいそうで……。私はただ、彼に頷くことしかできない。


選手だった時、練習がつらくて苦しくてたまらなかった。
どんなに練習を頑張ってもレースで結果を残せなかった時は、言葉にできないくらい悔しくてたまらなくて、そんな夜はいつもひとりで泣いた。


苦しい日々から逃げ出したいと思ったことは、一度や二度じゃない。
プールに向かう足が止まった日もあった。
辞めたいと思い続けた時期もあった。


それでも、逃げようとする自分自身と戦い、必死に苦しみ抜いてきた。
一レースでたったひとりしか手に入れられない勝利の瞬間のために。


「遊びに行く奴らを見ながら練習するのが嫌になったこともあるし、我慢ばかりしてつらかったはずなのに……今はあの日々に戻れることを望んでるんだよなぁ」

「うん……」