ただ、正式に言えば、泳げないことはない。
小学校の低学年で本格的に選手育成コースに入り、中学からは部活でも力を入れるようになって、水泳歴は十年を超えている。


選手として復帰はできなくても、たとえば体育の授業くらいならこなせるだろう。
足に後遺症が残っていたって、学校の授業なんて水泳選手にとっては朝飯前だ。


足を使わずに泳ぐ『プル』という練習のように手だけで泳ぐことも、足にあまり力を入れずに泳ぐこともできる。
そういう泳法だとしても、学校でしか水泳をしない子たちよりも速く泳げる自信はあるし、私の事情を知っている先生だって咎めることはないはず。


だけど……選手生命を絶たれたということは、私にとっては泳げなくなったのも同然だった。


授業で困らない程度に泳げても、きっと虚しくなるだけ。
水泳選手としての未来を絶たれた今、選手として戻れないのなら泳げなくなったのとなんら変わりはない。


「俺も」

「え?」

「まったく走れないって言えばうそになるけど、選手生命は完全に絶たれた」


明るく言いながらも、その横顔はとても悲しそうだった。


(同じだ……)


輝先輩は、私と同じだった。
まったく泳げないって言えばうそになるけれど、私も選手生命を完全に絶たれたから……。