「やっちまったなあ」と、昇平がうなだれる。「明日からどんな顔して学校行けばいいんだよ」
「変わらねえよ、何も」
べつにクラスが同じってわけでもないんだし、今までだってほとんど相手にされてなかったんだからな。
夕焼けのせいかは分からないけど、赤い目をしながら昇平が鼻をこすった。
「拓海、おまえはコクらないのか」
「しょせん高嶺の花だからな」
「なんだよ、ヘタレだな。俺を見習えよ」
――いいんだよ。
変わらなくていいんだよ。
昇平が海に入って波を蹴散らす。
「結局、俺たちは俺たちってことか」
「だろうな」
「早く卒業してえなあ。そしたら、島を出てもっといろんな相手に出会えるよな」
「俺は当分このままでいいよ」
高校に入るまで、俺たちの間に誰かが割り込む余地なんてなかった。
美緒が現れて、何かが変わったんだ。
べつに美緒じゃなくたって、いつかそういうときは来ていたんだろう。
俺は美緒がうらやましかった。
昇平の視線の先にいるのは俺じゃなくて美緒だった。
俺はいつだって、こいつの横顔を眺めているだけだったんだ。
「チッキショー。女なんか当分いらねえってか」
昇平が両手を空へ突き上げる。
と、次の瞬間、下ろした手で坊主頭を抱えながら笑い出す。
「いや、いるよ! いる、いる。やっぱ、いるって。カノジョほしいぜ」
「べつに今でなくてもいいんじゃねえの?」
振り向いた昇平が俺をにらんだ。
「おまえさ、世界の半分は何でできてると思ってるんだ?」
「おまえ」
虚を突かれたように立ち尽くす昇平の足に去りゆくフェリーが残した波が押し寄せる。
「……と、俺」
昇平の頬がゆるんだ。
「せまいなあ」と、水平線の彼方へ視線を流す。「俺たちの世界って」
――なのに、どうしてこんなに遠いんだろうな。
「空も海もこんなに広いのによ」と、昇平が波を蹴っ飛ばした。
高校卒業まであと一年半。
俺たちはその広い世界へと出て行かなければならない。
だけど、今はまだここにいてもいいんだ。
広い空と青い海に囲まれた、俺とおまえだけの、この小さな島の中に。
――いいじゃんか。
それでいいじゃねえかよ。
引き波が昇平の足元から砂をすくっていく。
夕焼けに染まる広い空にはもう、青なんかどこにもなかった。
「変わらねえよ、何も」
べつにクラスが同じってわけでもないんだし、今までだってほとんど相手にされてなかったんだからな。
夕焼けのせいかは分からないけど、赤い目をしながら昇平が鼻をこすった。
「拓海、おまえはコクらないのか」
「しょせん高嶺の花だからな」
「なんだよ、ヘタレだな。俺を見習えよ」
――いいんだよ。
変わらなくていいんだよ。
昇平が海に入って波を蹴散らす。
「結局、俺たちは俺たちってことか」
「だろうな」
「早く卒業してえなあ。そしたら、島を出てもっといろんな相手に出会えるよな」
「俺は当分このままでいいよ」
高校に入るまで、俺たちの間に誰かが割り込む余地なんてなかった。
美緒が現れて、何かが変わったんだ。
べつに美緒じゃなくたって、いつかそういうときは来ていたんだろう。
俺は美緒がうらやましかった。
昇平の視線の先にいるのは俺じゃなくて美緒だった。
俺はいつだって、こいつの横顔を眺めているだけだったんだ。
「チッキショー。女なんか当分いらねえってか」
昇平が両手を空へ突き上げる。
と、次の瞬間、下ろした手で坊主頭を抱えながら笑い出す。
「いや、いるよ! いる、いる。やっぱ、いるって。カノジョほしいぜ」
「べつに今でなくてもいいんじゃねえの?」
振り向いた昇平が俺をにらんだ。
「おまえさ、世界の半分は何でできてると思ってるんだ?」
「おまえ」
虚を突かれたように立ち尽くす昇平の足に去りゆくフェリーが残した波が押し寄せる。
「……と、俺」
昇平の頬がゆるんだ。
「せまいなあ」と、水平線の彼方へ視線を流す。「俺たちの世界って」
――なのに、どうしてこんなに遠いんだろうな。
「空も海もこんなに広いのによ」と、昇平が波を蹴っ飛ばした。
高校卒業まであと一年半。
俺たちはその広い世界へと出て行かなければならない。
だけど、今はまだここにいてもいいんだ。
広い空と青い海に囲まれた、俺とおまえだけの、この小さな島の中に。
――いいじゃんか。
それでいいじゃねえかよ。
引き波が昇平の足元から砂をすくっていく。
夕焼けに染まる広い空にはもう、青なんかどこにもなかった。