「平井くん、なんかごめんなさい」
「何が?」

 学校の玄関で野田が急に謝ってきた。

「僕と行動したからさっきは……」

 野田が沈みきった表情をしている。
 野田の表情につられて今、俺も同じ表情になってると思う。

「……見えない部分が大事なんだって、野田が教えてくれたじゃん。俺が野田といたいと思ったから今一緒にいるんだし」

 瞳が潤んできた野田。

 えっ? 今ここで泣くのか?
 なんか別の話題を――。

「気にすんな。それより、今日は野田の家でゆっくりしていってもいいか?」

「いいですけど……」

 学校の近くの駅から電車に乗り、ひとつ駅を通り過ぎた街に俺らの家がある。

 俺らは今まで登下校で同じ電車に乗ることはよくあった。けれどひとことも話さずに、野田は他の知らない人間たちと同じように空気のような存在だった。

 だから今みたいに隣に野田が座っているのは違和感しかない。

 ちなみにこの電車が通り過ぎる駅の街でエキストラをしている野田を見た。

 その駅を通る時に窓から外を眺めていたら、撮影の時にキラキラしていた野田の表情が頭の中に浮かんできた。続けて家で観た映画の中の野田も。

「あ、そうだ野田!」
「はい!」
「野田さぁ、目が綺麗だから前髪で隠さない方がいんじゃない? いつも髪を横に分けるか、前髪短いのも似合いそうだな」

 目を見開き、ぎょっとするような表情で野田はこっちを見た。

 そんな顔しながら野田は今、何を考えているんだろう。

 もっと野田をどういう人間なのか知りたくなった。こんなに誰かを知りたいと思うのは初めてだった。