「勘違いするな。おれがお供を申し出たのは、実家の父からちょうど人里での用事を頼まれているからだ」
「どんなご用事ですか」
「風音には無関係なことだ」
胸の前で腕を組んだ風夜が、不思議そうに首をかしげる風音からふいっと顔をそむける。それから烏月のそばに進み出ると、膝をついて頭をさげた。
「烏月様、私に供として人里に降りる許可をいただけますか」
食器を運ぼうとしていた由椰も、お盆を畳において、風夜の隣に膝をつく。
「もし人里へ行くことをお許しいただけるなら、ぼたもちの材料も探してきます。烏月様に召し上がっていただけるように」
由椰が頭をさげると、しばらく黙り込んでいた烏月が観念したように深いため息を吐いた。
「……、勝手にしろ」
「ありがとうございます!」
由椰がお礼を言うと、烏月がすっと立ち上がる。
「おまえの周囲を手懐ける才能にはほんとうに感心する。伊世以上だ」
「え……?」
金色の目を細めた烏月の顔は、少し呆れているようにも見えた。
「いや。うまいぼたもちを期待している」
唇の端をゆるりと引き上げると、烏月は由椰にそんな言葉を残して和室を出て行った。