「烏月様は、伊世様のことをとても大切に思っておられたのですね」
「そうですね。烏月様だけでなく、私も兄も泰吉も、伊世様が大好きでした」
「そのような方が、どうして私に加護をくださったのでしょう」
由椰が生贄として捧げられたあと、洞窟の中で三百年も眠っていたのは伊世の力に守られていたからだという。何の縁もない土地神さまが、由椰を守ってくれた理由がわからない。
「それは私にもわかりませんが、もしかしたら伊世様は由椰様になにかを託したかったのかもしれません」
「託す……?」
「はい。由椰様のその目の色は、伊世様にそっくりです。それに、気配も」
「それは……、ここに連れてこられたときにも言われました。私の気配が伊世様によく似ていたから、泰吉さんが『間違えた』のだと。でも、私が皆さんに愛されている伊世様に似ているはずなどありません。烏月様も違うとおっしゃっていましたし。私の色違いの目は、ずっと醜いと気味悪がられてきましたから……」
「何をおっしゃるんですか。由椰様の瞳はとてもお綺麗です」
右側の金の眼を手で隠そうとする由椰を風音が止める。
色違いの目を綺麗だと言われたのは、生まれて初めてだった。
「由椰様とは左右逆ですが、伊世様も金と青の色違いの瞳をお持ちだったのですよ。それは、とても美しくて神秘的でした」
由椰の向こうに伊世の面影を見ているのか、風音が少し遠い目をする。
風音たちに慕われ、姿を消しても尚、烏月の心の中にいる伊世という神様はどのような方だったのだろう。
みんな由椰と似ていると言うが、ほんとうは由椰とは似ても似つかないほど美しい方だったに違いない。その方と同じだというなら、由椰も自分の色違いの目が少しだけ好きになれそうな気がした。