由椰が泉の中に消えていく光を茫然と見ていると、
「大丈夫か?」
ふいに、耳元で烏月の声がした。
振り向くと、すぐ真後ろに烏月がいて、由椰の肩を支えるように抱いている。
「う、烏月様……?」
いつのまにか、狐のあやかしにかけられた術は解けていて、烏月の名を呼ぶ由椰の声が裏返る。それを聞いた烏月が、今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
「気付くのが遅れてすまない……」
初めて見る烏月の弱った表情に、由椰は驚いて首を横に振る。
「いえ。私は大丈夫です。私のほうこそ、申し訳ありません……。祭りでもらったお守りが、与市に化けたあやかしを呼び寄せてしまったようなのです……」
「由椰は何も悪くない。祭りで会った男は、おれの見る限り、あやかしではなく普通の人間だった。野狐が、おれの敷地に侵入するために、由椰と縁のあったあの男を間接的に利用したんだろう」
「では、あれは初めから与市ではなかったのですね」
狐のあやかしを包んだ稲妻が沈んでいった泉に目をやり、由椰は少しほっとする。それから、金色の月の仄かな灯りに照らされた烏月の美しい姿を見つめると、わずかに目を細めた。