由椰の反応に、与市が少し悲しそうな顔をする。

「なにも覚えてないのに、突然声をかけたりしてごめん。ただ、今の由椰がしあわせに過ごしているかどうかが気になったから」
「……」

 与市に言われて由椰が黙り込むと、一歩進み出てきた烏月がふいに由椰の肩に手を回して抱き寄せた。

「心配するな。お前が気に病まなくとも、由椰はおれの元で日々健やかに過ごしている」

 烏月の言葉に、与市だけでなく由椰までもが大きく目を瞠る。しばらく驚いた顔で烏月のことを見ていた与市だったが、烏月の腕のなかに収まって頬を染める由椰に気付くと、安堵したような、少し淋しそうな目をしてうなずいた。

「それならよかった。由椰、これを……」

 立ち去る間際、与市が、やや強引に由椰の手になにかを握らせる。それは、紫色の小さな御守りだった。

「前の世では守ってあげられなかったから、もし現世で会えたら渡そうと思ってた。魔除けの御守りらしい」
「……、ありがとう」
「じゃあ、またどこかで縁があったらね」

 御守りを由椰に預けた与市は、どこかすっきりした表情で手を振り、去って行く。

 与市が向かっていた先には、彼と同じ年頃の浴衣姿の女の子が待っていて、戻ってきた彼に笑いかけている。