「烏月様に言われた場所に行くと由椰様がいなかったので、心配いたしました」
「ごめんなさい、風音さん。すぐに戻るつもりだったのです」
「野狐が祭りに忍び込んでいるかもと聞いて、由椰様の身に何かあったのではと……。ご無事でよかったです」

 肩で息を吐く風音は、背中の黒い翼を隠している。着ているものも、少女のような可愛らしい朝顔柄の浴衣だ。

 見物客の多い祭りで、由椰を探すのに人の姿で走り回ってくれたのだろう。

「ほんとうにごめんなさい……」
「いえ、由椰様に何事もなければ良いのです。戻りましょう」

 眉を下げて落ち込む由椰に、風音が優しく笑いかける。

 風音ともに烏月と別れた場所で待っていると、しばらくして、烏月が風夜と泰吉を連れて戻ってきた。

「野狐は見つかりましたか?」
「いや。気配はあったが、逃げられた」

 駆け寄る風音に、風夜が首を横に振る。

「少し見回ったが、さすがに他の神領域を荒らしにきたわけではないらしい」
「では何の目的で……?」
「さあな。まさか、祭りを楽しみにきたわけでもないと思うが」
「とにかく、安全なうちに今夜は退散したほうがいい。野狐がここの神になにか仕掛ける分には勝手だが、烏月様もオレたちも気配を隠してここに乗り込んできている以上、へたに動けない」

 風夜と泰吉は、風音を交えてなにか話し合うと、

「烏月様、オレたちは様子を見ながら先に山門まで行っておくので、あとから由椰様とお帰りください」

 烏月にそう告げて、それぞれ違う方向へと散り散りになった。