物音を立てずに歩くことの多い烏月の下駄が、今日はカラン、カランと軽やかな音を鳴らす。その音に混じって、ドン、ドンッ――と、和太鼓の音が遠くに聞こえるような気がする。

「いってらっしゃいませ、由椰様」

 手鏡を入れた木箱を抱えた風音が、由椰に向かって恭しく頭を下げる。

「待ってください、風音さんっ……。本当に、烏月様とふたりだけで……?」

 先を行く烏月の背中を気にしながら、困惑気味に眉を下げる由椰に、風音が妖しくふふっと笑う。

「なにかあったときのために、兄や泰吉さん、それに私も後ほど、姿を隠して祭りに伺います。ですが、あくまでもなにかあったときに烏月様と由椰様をお守りするため。ここからは烏月様とおふたりで……、今宵の祭りをゆるりとお楽しみください」

 風音が由椰の背中に触れると、意思に反して体が動く。

 気付けば由椰は烏月の隣に並んでいて、差し出された手に導かれるままに、大鳥居の外に出た。