神の塔を出た二人は、ワルキューレに見送られ南の大陸に向かう。
「あ、そっか。当然、帰りも舟かあ」
ここに来るまでの道のりを思いだし、コウルは気が重い。
「大丈夫です。コウル」
「え?」
エイリーンは魔力を集中する。するとーー。
「わあ!」
コウルが驚きと喜びの声をあげる。
エイリーンの背中から、輝く光の翼が生えたのである。
「これも、女神の力?」
「はい」
エイリーンは嬉しそうに返事をする。そしてコウルはの後ろに立つ。
「失礼します」
エイリーンはコウルの背中から抱きつくように手を回す。
コウルは急に抱きつかれ赤くなるが、その瞬間、エイリーンは飛翔した。
「うわわわ!?」
急に飛び立たれ驚くコウル。
エイリーンは軽く謝ると、南の大陸へ向け羽ばたく。
捕まれたまま、コウルはひとつ思うことがあった。
「エイリーン、手はキツくないの?」
「……言わないでください、キツいです!」
飛んでるからか、珍しく大声で返事をするエイリーン。
二人はそのまま無言で飛んでいく。
そして数時間、二人は南の大陸についた。
「エイリーン、ごめんね。お疲れ様」
「いえ。大丈夫です。なんとか……」
コウルはエイリーンの手を撫でる。
よく考えると、エイリーンの手が限界だったら、コウルは海にまっ逆さまであった。
二人はまず近くの町に寄り、休息と情報収集をするつもりであった。
だがーー。
「モンスター!?」
町人がモンスターに襲われている。
コウルは剣を抜き、モンスターに斬りかかった。
女神の力を思い出したエイリーンも、魔力でモンスターを撃破する。
「何で町にモンスターが?」
「モンスターが町を襲うことはあります。ですがこれは……」
多すぎるとエイリーンは感じた。これはまるで誰かが意図的にやっているような。
そう思い、ひとつ思い出す。以前、カーズがアンデッドを呼び出していたことに。
「これもカーズが……?」
モンスターは最初、町人を攻撃していたが、だんだんとコウルたちを狙い始める。
修行した二人の敵ではないが、数の多さに全滅させるのには時間がかかった。
「時間稼ぎでしょうか?」
「わからない……」
コウルたちはそのまま宿を取ると、町で情報を集める。
「遺跡の塔ねえ。知らないなあ」
「遺跡の塔? さあねえ」
町人は皆、遺跡の塔を知らない。
仕方なく二人は一度宿に戻る。するとそこにはーー。
「やあ」
「え、マスターさん?」
二人の部屋に、マスターが壁際に立っていた。
「無事に修行が済んだようで何よりだ」
「マスターさんは何故ここに?」
「遺跡の塔に向かうのだろう」
マスターの眼鏡が光る。コウルたちはうなづいた。
「きみたちが最初に会った荒野へ行くんだ。そこに行けばわかる」
そう言うと、マスターは一瞬で姿を消した。
「あの人、一体何者なんだろう。エイリーン知ってる?」
「いえ……。エイナール様は知っているかもしれせんが」
二人はマスターの正体を気にしながらも、その日は休むのであった。
翌日、二人は荒野に立っていた。しかし荒野はとても広い。
だが、塔など見当たらない。
「塔なんて見当たらないね……」
「大丈夫です」
エイリーンは荒野に向けて魔力を集中すると、光が広がり始める。
すると見えなかった場所に、遺跡、そして塔が出現する。
「これは……」
「魔力による幻影が張られていたんですね」
二人は遺跡に入る。その遺跡の中央には、塔が立っている。
「ついに……きたね」
「はい」
塔に入る。
塔の内部は広いが何もない。
「上に行けないね……」
「これは魔力による幻影ではありませんね」
二人はそれぞれ別れて、壁を調べてみる。
その時だった。
「「え!?」」
二人を遮るように壁が降ってくる。
「エイリーン!」
「コウル!」
閉じる前にと走るが、無情にも壁は降り閉まる。
コウルは壁を叩く。開く気配はない。
その時、コウルはハッとして、咄嗟に横に飛んだ。
コウルがいた場所に矢が刺さる。
「誰だ!」
コウルが振り返る。そこにいるのはモンスター。
上半身人型、下半身は馬のモンスター。
「ケンタウロス……?」
「そうだ。半人前だがな」
「エイリーンは」
「向こう側にいる。無事とは限らないがな」
その一言に、コウルのスイッチが入る
「なら、あなたを倒し、エイリーンの所へ行かせてもらう」
コウルは剣を抜いた。
「コウル……」
エイリーンは壁を調べている。しかし壁は開く気配はない。
「いいのかい? そんなに男に気を取られて」
「え? きゃあっ!」
エイリーンを巨大な蔦が弾き飛ばす。
エイリーンがふらつきながら立ち上がると、そこには蔦に身体が覆われた女性だった。
「あなたは?」
「私は植物使いザ・ローズ。カーズ様に仕える者さ」
「コウルは?」
「向こうさ。もう死んでるかもね」
「コウルは死にません!」
「はん、じゃああんたが先に死ぬのさ!」
ローズが蔦を振るう。エイリーンはそれを魔力の壁で受け止める。
コウルと、エイリーン。それぞれが敵との戦いを始めるのだった。
分断されたコウルとエイリーン。
それぞれの前に現れたのは、カーズの刺客なのだろうか。
だが、そんなことは二人には関係ない。お互いを助けたい思い。それだけで二人の戦う理由には十分だった。
コウルが剣を構える。ケンタウロスは弓を構え矢を放つ。
矢をかわしたコウルは、足に魔力を込め、一気に接近しようとする。
(弓矢なら、近接戦に持ち込めばーー!?)
コウルの予想より遥かに早く、矢の二発目が飛んでくる。
コウルはそれをギリギリでかわした。
「たいていの者は私相手に、接近戦を挑もうとする。だが無駄だよ、キミは近づけない」
ケンタウロスは素早く第三、第四と矢を放つ。
コウルはそれをかわすのに精一杯で、近づく余裕がない。
「ーーなら!」
コウルは右手に魔力を込めた。
魔力弾。コウルの唯一の遠距離攻撃。だが、それは軽々と避けられる。
そしてそのわずかな隙だった。
「っ!?」
コウルの足を矢がかすめ、その場に倒れこんだ。
「いてて……」
コウルがなんとか立ち上がると、ケンタウロスは言った。
「その足でまだ接近戦に持ち込む気か。それとも当たらない弾を投げるか。諦めるんだな」
「諦める?」
その言葉を聞き、コウルは笑った。
「何がおかしい?」
「ジンさんと約束した。カーズを止めるって。そして、向こうにはエイリーンがいる。僕の好きな人が。ならーー」
剣を構え直し、立ち直る。
「ーーこんな所で諦めるわけない!」
コウルの一喝が響いた。
エイリーンも苦戦を強いられていた。
ザ・ローズの蔦攻撃は激しく、エイリーンは魔力の壁で受け止めるしかない。
たまに魔力弾で反撃しても、それはまた蔦で弾かれる。
「……っ」
「ほらほら、その程度かい!」
蔦が迫る。エイリーンは右からきた蔦を魔力で防ぐが、すぐさま左からきた蔦に弾き飛ばされた。
「きゃあっ!」
それを見つつ、ザ・ローズは見下しながら言った。
「こんな小娘と、あっちの坊やがカーズ様を止めるねえ。この程度かい」
攻撃が止まったのをみて、エイリーンは立ち上がる。
「ジン様との約束。女神見習いとしての使命。そしてコウルのために、カーズを止めなくてはならないんです!」
「はん! なら少しはあたしに傷を負わせてみるんだね!」
再び蔦が宙を舞い、エイリーンに迫る。
エイリーンは慌てず、魔力を集中すると、全方位に魔力の壁を貼った。
「なにっ!?」
魔力の壁に阻まれ、蔦は全て弾かれる。
すぐさまエイリーンは魔力弾を連射した。
「!」
蔦での防御が追いつかず、魔力弾をくらうザ・ローズ。
「はあ……はあ……。やりました?」
魔力弾の衝撃で発生した砂煙が晴れる。
ザ・ローズはまだ生きている。そして……キレていた。
「小娘……。よくもやってくれたねえ!」
蔦が再びエイリーンに迫る。だがエイリーンも魔力の壁を全方位に貼り、蔦は全て弾かれた。
「無駄です」
「それはどうかねえ!」
壁で弾かれた蔦。そしてザ・ローズからさらに蔦が飛んでくる。その蔦は魔力の壁ごとエイリーンを覆い始めた。
「これは……!?」
「あんたはもう逃げられない」
魔力の壁ごと蔦に覆われ、エイリーンは出ることができない。
「ですが、このままではあなたも何もできません」
「そうかねえ!」
ザ・ローズが蔦を操る。蔦は魔力の壁ごと、エイリーンを持ち上げ始めた。
「そ、そんな……!」
「ほら!」
ザ・ローズが蔦を振り回す。エイリーンは魔力の壁で覆われているが、その魔力壁ごと、蔦はエイリーンを叩きつける。
「っ……!」
「いつまで持つかねえ!」
二度、三度、蔦を壁に叩きつける。
そして、ついにエイリーンの魔力壁が崩れた。
「ああっ!」
エイリーンは蔦に締め付けられる。
「終わりだね。小娘。そのまま絞め殺してやるよ」
(す、すみません。コウル……)
エイリーンの悲鳴が響きわたった。
「エイリーン?」
悲鳴はコウル側にも届いていた。
「どうやら娘も終わりが近いようだな」
「エイリーンは!」
「私と同じく、カーズ様の部下、ザ・ローズが相手をしている。今のところ悲鳴でわかっただろう。娘も終わりだ」
その言葉にコウルがキレた。
魔力を集中し走り出す。
「無駄なことを!」
ケンタウロスはすぐさま矢を放つ。コウルはまた避けるしかない。
(早く……エイリーンを)
キレているが、コウルの頭は冷静だった。
今すぐ、可能な限り早く敵を倒し、エイリーンのもとへ向かう。
そのために頭をフル回転させる。
(多少痛いかもしれないけど……!)
コウルは再び走る。ケンタウロスが矢を放つ。
コウルはそれを避けない。いや、ギリギリでかわす。
矢の雨が何本もコウルをかすめる。可能な限りギリギリで、多少の傷を我慢しコウルは突っ込む。
「うおおお!」
そして、コウルは剣を投げた。ケンタウロスの目前に剣が迫る。
だがケンタウロスはそれをあっさり避けた。
「投げるのは悪くないが、真正面からでは……!?」
「エイリーン!」
剣を投げた手に、再び剣が現れる。
女神聖剣。エイリーンと分断されているため、呼べるかは若干不安があったが、コウルの手には聖剣が出現していた。
「これで!」
持っていた剣を投げたと思い、油断したケンタウロスに、聖剣を掲げたコウルが迫る。
そして、その一撃は、ケンタウロスを切り裂いた。
「はあ……はあ……。終わりだね」
「ああ、見事だ」
ケンタウロスはその一言で倒れる。
だが、コウルはそれを見ている余裕はない。
エイリーンを助けるため、分断された壁に向かうと、聖剣を振った。
もう少しでエイリーンの意識がなくなる。ザ・ローズが笑っていた時だった。
壁が切り裂かれる。ザ・ローズは驚いた。
「まさかケンタウロスが敗れたのかい!?」
「エイリーンを返してもらう」
コウルは状況を見るや、すぐに蔦を切り裂く。
すぐさまコウルはエイリーンを受け止めた。
「大丈夫?」
「す、すみません……。コウル」
「ううん。遅くなってごめんね。」
二人を見て、ザ・ローズは怒る。
「イチャイチャしてんじゃないよ!」
蔦が迫る。コウルは落ち着いて聖剣を振った。
聖剣から放たれる衝撃が蔦を弾く。
「ここにいて」
コウルはエイリーンを下がらせると、一気にザ・ローズに接近する。
「速い!?」
ザ・ローズはケンタウロスほど早くなかった。コウルは聖剣を振り上げる。
「させないわ!」
ザ・ローズは最期の抵抗に全ての蔦を前面に集め防御する。
だが、聖剣の前では無意味。コウルの一撃は、蔦ごと、ザ・ローズを切り裂いた。
「ふん。さすがはカーズ様を止めようと言うだけはあるわね」
死に際にザ・ローズが呟く。
「でもね……あんたも終わりさ!」
ザ・ローズは悪あがきのごとく、コウルに蔦を巻き付ける。
コウルはすぐさまそれを斬るが、その一瞬だった。
「え……?」
「コ、コウル!」
コウルの背中に矢が刺さる。
切り裂かれた壁の向こうからケンタウロスが矢を放っていた。まだ生きていたのだ。
「……っ」
コウルが倒れる。それを見るとケンタウロスとザ・ローズは満足したかのように、先に魔力の光となって消えた。
「コ、コウル! コウルー!!」
エイリーンの悲痛な叫びが、塔の中にこだました。
ケンタウロスの矢に倒れたコウル。
塔にエイリーンの叫びが響きわたる。
エイリーンはすぐさま、矢を抜き回復の手を掲げた。
「コウル! コウル!」
ジンの時のように、魔力がすぐさま霧散するわけではないが、コウルの傷はなかなか塞がらない。
「こんな所で死んではダメです、コウル!」
エイリーンは手をかざしながら、必死にコウルに呼び掛け続けた。
「う……ん……」
コウルの意識は闇の中にあった。
「ここは……?」
闇の中をコウルはさまよう。
すると一筋の光が照らし、コウルはそこに向かう。
「これは、川……?」
その時、コウルは思い出した。
自分がケンタウロスの矢を受けたことを。
「じゃあ、これは三途の川……なのかな?」
川を眺める。コウルの足は無意識に川に進みだしている。
「僕、死んだのか……」
「いや、きみはまだ死んではいない」
その声にコウルは驚く。コウルの視線の先にはーー。
「ジン……さん?」
カーズに斬られ、死んだはずのジンがそこにはいた。
「ジンさんがいるってことは、やっぱり僕は死んでるんじゃ……」
「いや、まだ生きている」
川にいるジンは、自分を指差すと言った。
「ここを越えなければ、まだ生きれる可能性はある。気持ちを強く持つんだ!」
その言葉に、コウルは思い出す。
そうだ、ジンさんと約束した。カーズを止めると。
そして何より、今の自分にはエイリーンがいる。こんな所で死ぬわけにはいかない。
無意識に進んでいた足が止まる。
「ありがとうございます、ジンさん」
ジンに礼を言い、コウルは振り向く。
川を逆走し、元の場所へ走る。
それを見届けると、ジンは消えていった。
「っ……」
「コウル!」
コウルが目を覚ます。エイリーンは喜びで抱きついた。
「よかった。コウル……」
「エ、エイリーン、痛いよ……」
コウルは苦笑いしながら答える。
背中の傷はまだ完全に塞がっていない。
「す、すみません」
エイリーンはすぐさま、傷の治療に戻る。
「せっかく貰った服、早速穴開けちゃったね」
「これくらいならすぐ直せます」
エイリーンは傷の治療を終えると、そのまま服にも手をかざす。魔力の光に包まれると、服の穴は塞がっていた。
「べ、便利だね」
「この服だからですよ」
女神の力で編まれた服。コウルは服を改めて見る。
矢は刺さったものの、自分が助かったのはこの服のおかげかもしれないと。
「ありがとう。……って、エイリーンもボロボロじゃないか」
コウルは、エイリーン自身にも回復するように言う。しかしエイリーンは首を横に振った。
「この力は自身には使えないんです」
「え、そうなの?」
ゲームにある回復魔法とは違う。コウルは改めて思った。
「ここで、休憩していこうか」
「え、ですが」
ここまで来て、後はおそらく、カーズを止めるのみ。
休憩している余裕があるのだろうかとエイリーンは思ったが。
「エイリーンにも万全でいてほしいんだ。何があるかわからないから」
「そうですね。わかりました」
まだ、なにがあるかわからない。
二人は今のうちに休憩することにする。
「ぬ、塗るよ?」
「は、はい」
エイリーンの回復の力のおかけで、使うことのなかった薬。それを今、使っていた。
コウルは恥ずかしそうに、エイリーンの身体に薬を塗る。女性の身体にこうやって触れるのは、コウルは初めてであった。
恥ずかしさを誤魔化すためか、エイリーンが話しかける。
「コウル。あなたは元の世界に帰りたいですか?」
「え?」
何故今そんなことをとコウルは思う。
「どうなのです、コウル」
「それは……」
コウルは考える。自分は元の世界ではあまりいい思い出がない。しかし家族はいるし、少しは恋しい思いもあった。
「でも、今は、エイリーンと過ごしたいな」
少し照れつつ、コウルは言った。
エイリーンも照れるかと思いきや、真面目な顔のままだ。
「考えておいてほしいのです、コウル。もしも、元の世界に戻るか、この世界に残るかを決めるときが来たときのために」
「う、うん」
コウルは頷く。いや、頷かないといけない雰囲気があった。
それを見ると、エイリーンは普段の笑顔を見せる。
二人はそのままつかの間の急速を取るのだった。
「では、行きましょうか」
「うん」
二人は立ち上がると、再び壁を調べ始める。
今度は分断されないように二人一緒に。そしてーー。
「あ、この壁が怪しい」
壁の一ブロックを押す。すると天井から階段が降りてきた。
「詳しいですね」
「まあ、元の世界でゲームそこそこやってたから」
「げえむ?」
「元の世界にある遊具だよ」
そう言って、コウルは階段を上る。
塔の上は迷路のようになっていた。二人は塔の中をさまよい続ける。
そして怪しい道を見つけた。
「ここかな。行ってみよう」
コウルは道を進み、そして……落ちる。
「え、うわわっ!?」
「コウル!」
エイリーンが飛び込み、光の翼を出し、コウルの手をとる。
「ありがとう、エイリーン」
「いえ、でもここは……?」
二人は部屋の中央をみる。そこには、塔の雰囲気とは違う巨大な機械。
「これは……?」
「魔力砲だ」
機械の後ろからカーズが現れる。
「カーズ……」
「よく来たな」
カーズは不敵に笑う。
「なるほど。未熟なガキと、記憶喪失女が、ずいぶん成長したようだ」
「カーズ、あなたは何をする気だ」
「聞きたいか?」
そう言いつつ、カーズは機械を触る。
「こいつは魔力砲。魔力を貯めた砲台だ。これをーー」
カーズが天を指す。
塔のてっぺん。そこは空間が歪んでいる。そしてそこにはーー。
「あれは……地球!?」
元の世界。その星、地球が映っている。
「そう、これをここから撃ち込む」
「な!?」
コウルは驚愕する。ジンが言っていた、元の世界を滅ぼす手段。まさか、こんな方法だとは。
「だけど、こんな砲台で滅ぼせるわけが……」
「並みの魔力では、町一つ滅ぼすのが限度だろう。だがーー」
カーズはエイリーンを指差した。
「そこの女の膨大な魔力。それを手に入れたことで、この砲台は完璧になった!」
エイリーンは思い出す。女神見習いとしてカーズに敗れた時のことを。
「あの時……」
「そう。貴様の魔力は奪い尽くした。驚いたよ。その貴様がまだ生きていて、まだ、魔力を持っていたことに。だが、よかった」
カーズが剣を構える。
「また貴様の魔力を奪うことができるのだから!」
カーズは機械の横から跳躍すると二人に斬りかかる。
二人は飛んだままそれを避ける。カーズは落ちるかと思われた。
「貴様ら二人の魔力を最期に、魔力砲を発射する!」
カーズは壁にしがみつくと、そのまま壁を蹴り再び剣を振るう。
二人はかわしながら下に降りる。カーズは凄まじい身体能力で壁を降りながら斬りかかる。
そしてそのまま、機械の下まで降りてくる。
そしてコウルも剣を抜いた。
「あなたを止めます。カーズ」
「やれるものなら!」
二人の剣がぶつかり合う。
元の世界の命運をかけた一戦が始まった。
コウルとカーズ、二人の剣がぶつかり合う。
一撃、二撃、三撃。
「なるほど、できる! だがーー」
カーズがコウルを弾き飛ばし、トドメの一撃を振るおうとする。
それをエイリーンの魔力弾が止めた。
「チッ、邪魔だな!」
カーズがエイリーンの方に向かおうとする。
だがそれはコウルによって遮られる。
「なるほど、二人でオレを止めようというわけか!」
一対一では、コウル、エイリーンはまだカーズに勝てない。
だが二人で攻めれば、その戦いは互角以上だった。
「このオレが……!」
押され始めるカーズはイラツキを隠せない。自分と互角に戦えるのはジンだけだったから。
「はあっ!」
コウルの一撃が、カーズの剣を吹き飛ばすと、コウルが剣を突き付けた。
「終わりです、カーズ」
コウルはカーズに降伏を願う。魔力砲を止めてくれれば、命を取る必要はない。
「舐めるなよ……」
カーズは後ろに跳ぶと、懐から黒い宝玉のようなものを取り出した。
「使いたくはなかったが……」
カーズが宝玉を握りしめる。
「な……」
カーズの魔力が増大し始める。コウルはそれを止めようと一気に接近し、仕方なくトドメを放とうとして、弾かれた。
「ぐっ……?」
「大丈夫ですか、コウル」
エイリーンが駆け寄り、二人でカーズを見る。
カーズの周りを闇の魔力ともいうべき、漆黒が包んでいた。
「この魔力は……!?」
エイリーンにはその魔力に覚えがあった。
だが、今はそれどころではない。闇の魔力を纏ったカーズが迫る。
「ぐっ!」
「きゃあっ!」
二人を吹き飛ばし剣を拾い直すと、カーズは機械を操作し始めた。
「もう、貴様らの魔力はいい。今の魔力とオレの魔力で!」
カーズが起動スイッチを押した。機械に発射タイムが表示される。
「あと10分だ。あと10分で終わる!」
「やめろっ!」
コウルの剣がカーズを斬った、と思われた。
カーズは闇の魔力で覆われた手で、剣を受け止めると、そのままコウルを投げ捨てる。
「おとなしく諦めろ」
「そうは……いかない。エイリーン!」
「はい!」
コウルは女神聖剣を呼び出し、カーズに突撃する。
さすがに聖剣相手には不味いと感じたのか、カーズは剣で聖剣を防ぐ。
光の魔力と闇の魔力が衝突する。
「うおおっ!」
「はああっ!」
コウルとカーズの全力の斬りあい。
しかしカーズの急ごしらえの闇の魔力では、コウルとエイリーン、契約した二人の魔力が上回る。
「カーズ!」
ついにコウルの聖剣の一撃が、カーズを切り裂いた。
「がはっ……」
カーズが吹き飛び、壁に叩きつけられる。
コウルはすぐさま、カーズに近づき聞いた。
「あの機械の止めかたは!」
カーズは笑った。
「も、もう遅い。魔力砲の起動は完了している。止められはせん」
「な!?」
発射タイムはあと5分。
コウルはとエイリーンは機械を調べてみるが、止める方法はわからない。
時間がどんどん過ぎていく。
「何か、手はないの?」
コウルがそう漏らした時だった。
「手段はある」
その声はリヴェルであった。
「リヴェル様!?」
「リヴェルさん、なぜここに!? いや、それより止める方法って?」
「止める方法じゃない。防ぐ方法だ。だがその前に……」
リヴェルはコウルに向き直った。
「コウル、お前は元の世界に帰りたいか?」
「え、今はそれどころでは」
リヴェルは空を指差した。
「あの空間の歪み。あれをくぐればお前は元の世界に帰れる」
「えっ」
コウルは機械の上。歪みを見上げる。
「コウル、エイリーン。お前たちが協力して、魔力で歪みを閉じるんだ。そうすれば、魔力砲は空に向かって発射され、天に消える。だが……」
もう一度、リヴェルはコウルを見た。
「あとは、お前が元の世界に帰って歪みを閉じるか、こちらの世界に残ったまま閉じるかだ」
「僕は……」
「時間がない。早く決めるんだな。」
コウルはエイリーンを見た。
「コウル、どちらを選んでも、わたしはあなたの意見を尊重します」
コウルの決断はーー。
「僕は……」
コウルは元の世界の思い出と、目の前のエイリーンを比べる。そしてーー。
「……この世界に残ります」
「コウル!」
「そうか」
エイリーンは喜び、リヴェルは淡々と呟き歩き出す。
「来い。歪みを閉じるぞ」
「は、はい!」
リヴェルに続き、機械を上るコウルとエイリーン。
高い機械を上り終えるころには、機械の時間は2分を切っていた。
「魔力を集中して、あの歪みにかざすんだ」
二人は言われるまま、魔力を集中する。
「そのまま閉じるイメージを!」
「はい! ……リヴェルさんはやってくれないんですか?」
「俺は干渉してはならないんだ」
リヴェルはそれだけ言うと、カウントを指す。あと1分を切っている。
「エイリーン!」
「はい!」
二人は集中した魔力で、一気に閉じるイメージをした。
歪みが縮み消えていく。歪みが完全に消えると、そこは塔の天井に戻った。
「お、終わった……?」
「まだですコウル!」
エイリーンがすぐさま下に降りるよう促す。
そう、ここはまだ機械の上。このままいては発射に巻き込まれる。
慌てて降りる二人。リヴェルはいつの間にかその姿を消していた。
「伏せてっ!」
下まで戻ってきて二人はすぐさま伏せた。ほぼ同時に魔力砲が発射され、衝撃が走る。
「っーー!」
ふたりで互いに押さえあい、吹き飛びそうになるのをこらえる。
数秒後、魔力砲の衝撃が収まり、辺りは静まり返る。
「こ、今度こそ……?」
「はい、終わりました。……いえ、まだ終わってないかもしれません」
「え?」
エイリーンは壁のすみに倒れているカーズに近づく。
カーズはまだギリギリ息があり、消えていなかった。
エイリーンはカーズの横に転がる、宝玉を指差す。
「カーズ。あなたはそれをどこで?」
「……教えると思うか?」
エイリーンは首を横に振る。だが構わずに、宝玉を拾った。
「だ、大丈夫? そんなに普通に拾って」
「大丈夫です。もうこの宝玉に先ほどの力は感じません」
エイリーンはにこやかにうなづいた。
「ふ……すでに心当たりがあるようじゃないか。食えん女め」
カーズは吐き捨てると、そのまま消えていった。
「エイリーン。その宝玉に心当たりがあるの?」
「ええ。あまり考えたくはありませんが……」
エイリーンは少し悩む表情をしたがすぐに言った。
「戻りましょう。神の塔へ」
二人が遺跡の塔から出ると、そこにはワルキューレたちがいた。
「お疲れ様でした。コウル様、エイリーン様。エイナール様がお待ちです」
「ありがとうございます。ワルキューレ」
コウルとエイリーンはワルキューレに連れられ、神の塔へ戻る。
「よく戻りました。コウル、エイリーン」
二人はエイナールの前に跪く。
「エイリーン。無事に女神見習いとして、カーズを討伐してきました。私は嬉しく思います」
「ありがとうございます」
エイリーンが頭を下げる。
「そしてコウル。契約者として、よくエイリーンを助けてくれました」
コウルもエイリーンに合わせ、頭を下げる。
だがすぐに、エイリーンが質問をした。
「エイナール様は全てご存知なのですか?」
「というと?」
「今回のカーズの計画。そしてーー」
エイリーンは宝玉を取り出す。
「ーーこの宝玉のことも」
エイナールは躊躇いもせず頷いた。
「気づいてしまったのですね……」
「はい。あの子は……エルドリーンは?」
「もう既にここにはいません。行方はさすがに私にも……」
「わかりました。ありがとうございます。エイナール様」
エイリーンが立ち上がる。
「わたしがエルドリーンを止めてきます。姉妹として」
そう言うと、礼をしエイリーンは下がっていく。
コウルはわけのわからないまま、自分も礼をしエイリーンに続いた。
「エイリーン、どういうことなの?」
エイリーンは立ち止まり、コウルの方を向く。
「こんかいのカーズの一件。わたしの姉妹、エルドリーンが糸を引いている可能性があります」
「え!」
前に神の塔に来たときに出会った、エイリーン似の少女をコウルは思い出す。
邪神見習いと言われていたが、コウルにはそんな悪い人とは思えなかった。
「なんでそう思うの?」
「この宝玉です」
先ほどエイナールにも見せた、カーズが使っていた宝玉。
「この宝玉を使ったカーズが見せた闇の魔力。その魔力は邪神の魔力。しかもエルドリーンの魔力でした」
「邪神の……魔力……」
「エルドリーンの魔力は、わたしと同じくらい。それに姉妹です、間違いありません」
エイリーンは力強く頷いた。
「コウル。カーズの討伐は終わりました。その……次はエルドリーンを止めるため、わたしに力を貸してくれませんか?」
エイリーンは輝く瞳でコウルを見つめる。
その瞳にコウルは照れながらも頷く。
「僕はエイリーンの契約者で、こ……恋人だからね。もちろん力を貸すよ」
「ありがとうございます!」
エイリーンはコウルに飛び付く。コウルはそれを受け止め抱きしめた。
横でワルキューレが見ているのも気づかずに。
「コウル様、エイリーン様。お部屋の用意ができておりますので……」
ワルキューレはそう言ってそそくさと去る。
「……今日は休もうか」
「は、はい」
見られていたことが恥ずかしくなり、二人もささっと部屋に向かうのであった。
「で、どうしようか」
翌日、朝食を食べながら、二人は今後の予定を話し合う。
「エイナール様も行方がわからないとのことでしたので、邪神界に向かおうと思います」
「邪神界?」
聞き慣れない単語に、コウルはオウムのように返す。
「わたしたちがいるこの世界。コウルやジン様の言い方を借りるなら『異世界エイナール』は正式には『女神界エイナール』といいます」
エイリーンは語る。世界はいくつも存在し、コウルの元の世界も今の世界も、一世界に過ぎないこと。各々の世界はそれぞれの神によって守護されていることを。
「そして、邪神の地『邪神界エンデナール』。邪神見習いのエルドリーンはここにいる可能性が高いです」
「『邪神界エンデナール』……。そこにはどうやって?」
「この塔から、直接飛ぶことができます。エイナール様の許可がいりますが」
朝食を食べ終わると、二人はすぐさまエイナールのもとに向かう。エイナールはすぐに許可をくれた。
塔の一角。魔力が貯まる部屋。そこから邪神界に飛ぶことができる。
「ワープみたいなものかな」
「わーぷ?」
「ううん。なんでもないよ」
二人は魔力の貯まる床に乗る。二人の姿は魔力となり一時的に消えた。
「エルドリーン。来たようだぞ」
「はい、わかっております。エンデナール様」
邪神界の神の塔。そこにはエルドリーンと大柄な男、邪神エンデナールがいた。
「我は構わぬが、お主が姉妹であるあの女と対するのは何故か聞いておこう」
「姉妹だからこそです。私はエイリーンと対せねばならないのです」
「そうか。好きにするがいい」
「はい」
エルドリーンが去る。邪神エンデナールは不敵に笑っていた。
「来なさい、エイリーン。私があなたを……。そしてコウル。あの男を……」
エルドリーンもまた不敵に笑うのであった。
邪神界エンデナール上空。
「うわああっ!?」
「コウル、手を!」
女神界エイナールから飛んだ二人は、邪神界上空に出現していた。
落ちるコウルをエイリーンが何とか手を取る。
「あ、ありがとう」
「いえ、まさかこんな上空に出るとは思ってませんでした」
ゆっくり着地しながらコウルは聞いた。
「直接、こっち側の本拠地につくわけじゃないの?」
「普段でしたら、こちらの神の塔に行くはずですが……エルドリーンが妨害したのかもしれません」
二人は辺りを見回す。何もない。
「また荒野かあ……」
コウルがエイナールで最初に出会った地の荒野。今いる場所はそこによく似ていた。ただーー。
「空が暗い……」
雲が出ている訳でも夜でもない。その空はただ妖しく暗い光の空だった。
二人はとりあえず町を探し歩く。その道中、モンスターの轟きが響く。
「モンスター!」
コウルは剣を抜き、モンスターに斬りかかる。
モンスター退治も慣れたもの。そう思っていた。
「グオオッ!」
「なにっ!?」
モンスターは器用にコウルの剣をかわすと、武器を振るう。
コウルもギリギリ、その攻撃をかわした。
「コウル、邪神界の魔物は闇の魔力によって強化されています。油断しないでください」
「先に言って!」
コウルは魔力を集中し直し、モンスターに斬りかかる。素早い一撃は、今度こそモンスターを捉え、切り裂いた。
「ふう……」
コウルが一息つく。するとエイリーンが言った。
「こちらの世界で町を探すのは難しいかもしれませんね」
「どうして?」
「モンスターが強いからです。こちらの世界にも普通の人がいるのは間違いありませんが、この強さでは………」
「じゃあどうする?」
「仕方ありませんが、直接、塔を目指しましょう」
二人はやむを得ず、神の塔を目指し歩き始めるのだった。
荒野を抜けると、森か、草原に繋がる道に出る。
「草原のほうがまだマシかな?」
「ですが、神の塔に向かうには森を抜けたほうが早いですね」
「そうなの?」
エイリーンが頷いたため、二人は森を抜けることにする。
その近くの寂れ倒れた看板に『危険 魔の森』と書かれていたのに気づかずに。
「暗いけど、意外となんとかなるね」
二人は森を進んでいく。最初の方は順調だった。しかしーー。
「コウル、ふらついてませんか?」
「エイリーンこそ。……あれ?」
二人とも目が虚ろで、視界が定まらなくなる。そしてその場で倒れてしまった。
「エ、エイリーン……」
「コウル……」
ふたりの意識はそこで途絶えた。
「う、うーん?」
コウルが目を覚ます。そこは小さな小屋の中のようだった。
「ここは……?」
「おや、気がついたかい」
そこにいたのは、いかにも怪しげな雰囲気を醸し出す老婆。
「あなたは……?」
少し警戒し、剣に手をかけようとして気づく。剣がない。
「おやおや、そんなに警戒しなくてもよかろう。剣はそこに置いておる」
コウルの少し先の壁には、きちんと剣が立て掛けてあった。
「あ、ありがとうございます」
「その剣、ただの剣じゃないよ。大切に扱いな」
「え?」
コウルは剣を見る。
ジンから譲り受けた剣。青く輝く刀身はたしかにとてもお古だとは思えない。
女神聖剣と比べても見劣りはしないが……。
「……そうだ! エイリーン!」
「ん?」
コウルは小屋を見回すが、エイリーンの姿は見当たらない。
「僕と一緒に女の子が倒れていませんでしたか!?」
慌てるコウルに老婆は言った。
「わしが見つけたのはお主だけじゃよ」
「そんな……!」
倒れた時には一緒にいた。ならいつはぐれたのか。
考えるコウルに老婆は非情にも突き付けた。
「この森はモンスターも多いからねえ。もしかしたらすでに……」
「やめてください!」
コウルは立ち上がると外に出ようとする。しかし足がまだふらついてこけた。
「しばらくおとなしくするんだね。あんた、この森の毒気にやられたんだ。立てるだけすごいもんさ」
「でも……!」
それでもコウルは立ち上がり扉に手を伸ばす。
それを見た老婆は小さな小瓶を取り出すと、コウルに向かって投げた。
「それを飲みな」
「これは?」
「この毒気に対する特効薬だよ。副作用が大きいんであまり勧めないがね」
確かに、とコウルは小瓶を見て思う。小瓶の中身はどうみてもこっちが毒のような色をしている。
だがコウルはそれを一気に飲み干す。苦々しい味が口中に広がるが吐かずになんとか飲み終える。
「ありがとう、おばあさん」
「礼はいらんよ。この森のモンスターなら『リフレージュ』が怪しいね」
「『リフレージュ』ですね。わかりました!」
コウルはそれを聞き飛び出した。
老婆が怪しい笑いをしているのに気付かずに。
「すごい、身体が軽い。副作用があるなんて嘘みたいだ!」
コウルは軽い身体でモンスターを蹴散らしながら、エイリーンを探す。
そして、一匹の巨大な木のモンスターに遭遇する。
「こいつがリフレージュ?」
巨大な木のモンスターは、コウルに反応し枝を伸ばす。
コウルは枝による攻撃をかわすと、そのまま枝を切り落とす。そのままの勢いでリフレージュを斬る。
「――!」
傷ついたリフレージュは、逃げるように森の奥へ消えていく。
「待っ――!?」
(コウル、ダメです。その木はモンスターではありません)
コウルの頭にエイリーンの声が響く。
「エイリーン!? ど、どこ?」
(コウル……あの老婆を信用しては……いけま……)
エイリーンの声が小さくなっていく。
それに加え、コウルはひとつ感じたことがあった。
(リフレージュを追い払ってから、この辺りの毒気が強くなっている?)
エイリーンの言葉、毒気の強まり、それらから導き出される答えは。
(エイリーンが危ない!)
コウルは飛ぶ勢いで小屋に戻ろうと走る。
「エイリーン!」
小屋の扉を勢いよく開ける。中にはエイリーンも、老婆もいない。
「一体どこに……」
机、棚、怪しそうな場所を調べる。そして――。
「この下か!」
絨毯をめくる。そこにはいかにもな入り口があった。
地下室。そこの壁にエイリーンは繋がれていた。
「うう……コウル……」
「無駄だよ。あの小僧ならしばらく帰ってこないさ。帰ってきたとしても――」
上で大きな音。コウルが扉を開く音がする。
「早いねえ、まさかもうリフレージュを?」
落ち着いている老婆。その前にコウルが降りてくる。
「エイリーン!」
「早かったねえ」
コウルは老婆を睨み付け、剣を抜く。
「エイリーンを離せ」
「怖い顔だねえ。だけどお断りするよ。この娘はわしが若返るための生贄さ」
「離さないというなら――!」
コウルが剣を振り上げた……ところで、急に力が抜けたように崩れ落ちる。
「な…なんで……」
「いいタイミングででてきたねえ」
老婆はニヤニヤと笑った。
「あの薬は特効薬なんかじゃないよ。ただちょっと毒気を抑えるだけさ。そして効果が切れるころには毒をたっぷり吸っている。するとどうなるかねえ?」
「毒気が……一気に……?」
「そうさ、あんたはもう動けない!」
老婆の言う通り、コウルは完全に倒れ意識が失われようとしていた。
(エイリーン……。かっこ悪いところ毎回見せてるよね……ごめん)
(大丈夫です、コウル。聖剣を。聖剣を呼んでください)
コウルとエイリーン。二人の心の声が通じ合う。
それに導かれるように、コウルは力を振り絞り呼んだ。
「エイ……リーン」
光が広がり、エイリーンからコウルに聖剣が届く。
聖剣の光に包まれ、聖なる魔力によってコウルの身体が浄化されていく。
「な、なんだい、この光は!?」
さすがの老婆も想定外の事態に驚き始める。
「これが……僕とエイリーンの……あ、愛の力だ!」
照れくさいことを言いながら、コウルは立ち上がる。
「なにが、愛の力だい。こっちにはまだ娘が――」
一瞬だった。聖剣の魔力でコウルは跳躍していた。
壁に繋がれているエイリーンの鎖を斬ると、すぐさま老婆に剣を向けた。
「今度こそ……終わりです」
コウルの聖剣の一撃が老婆に叩きつけられる。
「わ、わしの若さが……永遠の命が……」
老婆はそう言い残して消えていくのであった。
「ごめん、エイリーン。すぐに気づかなくて」
「いいのですよ。こうやって助けてくれたのですから」
「でも……おばあさんに騙されたりしたし……」
コウルは落ち込む。彼は元の世界でもよく騙されていた。
しかしエイリーンはほほ笑みながら言う。
「でも、その純真さがコウルです。その……私の好きなコウル」
エイリーンは真っ赤になり、釣られてコウルも赤くなる。
二人の邪神界での冒険と、恋はまだまだ始まったばかりであった。
老婆を倒し地上に上がると、窓の外が晴れ渡っていた。
「ずっと毒の霧が出てたのに……」
「あのおばあさんを倒したからです」
エイリーンは語る。毒を発していたのはモンスターではなくあの老婆。
そしてコウルが倒そうとしていたリフレージュは、モンスターではなく森を復活させようとしていた木の精霊だと。
「もし、あの時に倒してしまっていたら……」
「この森は、ずっと毒の森だったかもしれません」
「うわあ……」
コウルは心の中で何度も謝った。
「大丈夫です。わたしも女神見習いとして、木の精霊に謝っておきますから」
心を読まれたことにコウルは驚く。
「そういえば、森でもさっきの老婆の所でもエイリーンの声が聞こえた。これは?」
「わたしとの契約が深まってきた証です。本当の意味で心が通じ合ってきたんです」
それは隠し事はできないのではとコウルは思った。
「そ、そんな何でも覗けるわけではないです。強く思った時だけです。……コウルは隠し事があるんですか?」
エイリーンが不安げな表情でコウルを見る。コウルは首を全力で横に振った。
「とりあえず、今日はこの小屋を借りて休もうか」
「そうですね。わたしもコウルもまだ毒気が完全に抜けきっていません。万全の状態まで休みましょう」
二人は小屋にある椅子や布団を借り休むのだった。
毒気が抜け万全になった二人は、その後あっさりと森を抜けることができた。
「草原より早かったでしょう?」
「老婆のせいで足止め喰らったからあまり変わらなかったけどね……」
コウルは苦笑いを浮かべる。
「でも、もう海です。この海を渡れば――」
二人の眼前に広がる海。その海は大嵐で荒れていた。
「この中を飛んでいくのは無理じゃない?」
「そうですね……。わたしひとりならまだわかりませんが、コウルを運ぶのは無理そうです……」
二人の道が行き詰る。
だがただ立ち止まっているわけにはいかない。二人は海沿いを歩いていく。そして――。
「町がある?」
「えっ?」
海沿いには確かに、小さいが町が存在していた。
二人はすぐさまその町へ向かう。
「ほう。こんな所に旅人……しかも子供とは珍しい」
町の入り口で男が言った。その男は屈強そうな身体をしている。
「子供じゃないです。それより……船はありますか?」
「船?」
男は少し考える。
「あるにはある。だが船乗りがいない」
「えっ」
「こんな世界だ。この町には屈強な者しか生き残ってないのさ。船乗りも屈強だがやられるもんはやられる」
「そうですか……」
船が動かせないのではどうしようもない。二人は途方に暮れる。
「どうします? 嵐が収まるまで待ちますか?」
それを聞いた男は疑問符を浮かべた。
「あんたら、知らないのか? この嵐はモンスターの仕業だ。そいつをなんとかしねえと嵐は止まらねえ。船乗りは皆、嵐のモンスターにやられたのさ」
「な……」
確かに二人がこの町に来るまでも、一向に嵐は収まる気配がなかった。
「なら、なんとかモンスターを――」
「言ったろ。船乗りは全滅しちまった。俺達には奴に近づく手段がねえのさ」
八方塞がりであった。これでは神の塔へ行く手がない。
二人は仕方なく、とりあえず宿を取ることにする。
「どうする?」
「わたしがコウルを運んだまま戦うのは……?」
「ダメだよ。エイリーンにすごい負担をかけちゃう」
しかしエイリーンは首を横に振った。
「ですが、手はこれしかありません。一刻も早く神の塔へ行く必要がある以上、多少の負担は覚悟の上です」
コウルはため息をついた。
「エイリーンって結構頑固だね」
「そ、そんなことありません!」
エイリーンがむくれる。コウルは笑った。
「エイリーンがそこまで言ってくれるなら、やろうモンスター退治!」
「はい!」
二人はタッチし合うとさっそく外に出る。
外には先ほどの男がいた。
「うん? さっきの坊主と嬢ちゃんじゃねえか。休んでたんじゃねえのか?」
「モンスター退治に行ってきます!」
「いやだから、船は動かせる奴が――」
コウルとエイリーンは構わず走る。そして海の前まで来て、飛んだ。
「な――」
翼の生えたエイリーンとそれに運ばれるコウルを、男は唖然と見つめていた。
勢いよく飛び立った二人だったが、現実はそう甘くなかった。
「大丈夫、エイリーン?」
「だ、大丈夫です……」
そうは言うが、エイリーンの飛行はとてもフラフラとしていた。
しかし掴まっているだけのコウルにできることはない。
「モンスターはどこにいるのでしょう?」
「あ、エイリーン! あれ!」
コウルが指さす方向。そこは暴雨風の中心。そこには巨大な雲のようなモンスターが渦巻いていた。
「ほう……我の所へ来るものがおるとは。しかも船ではなく飛んでくるとはな。だが――」
モンスターは大きく息を吸い込むと、コウルたちに向かい暴風の息を吹きかける。
「うわああっ!」
「きゃああっ!」
暴風が二人を襲う。
「エ、エイリーン! 大丈夫!?」
「コ、コウル、すみません。大口を叩いたのに。退避します」
二人は風に流されるように、町に戻るのであった。
「おかえりだな、坊主、嬢ちゃん。その様子だとダメだったな?」
「「はい……」」
二人そろってビショビショの身体でうなだれる。
かっこよく飛び出して行ってこの様で、恥ずかしさも一押しである。
「モンスターには会えたのに……」
「はい……あの風を何とかしないといけませんね」
二人は考える。
今のままでは、モンスターの所へ行けてもまた同じことの繰り返しだ。
「魔力で壁を作ってもダメなの?」
「ダメです。風で壁ごと吹き飛ばされるだけです」
「そっか……」
二人は再び八方塞がりに陥る。すると男が言った。
「風ねえ。そういや、少し前にこの町に寄った商人が『風除けのマント』みたいなの持ってたような」
「そ、その商人は今どこに!?」
「確か北東の山の方に行くって言ってたな」
「ありがとうございます!」
男に礼を言うと二人は駆け出した。
「行っちまったな……。『風除けのマント』なんて胡散臭いが……。まあ本当だったらそれでよしか」
男は二人が行った方向をじっと見つめるのだった。
コウルとエイリーンは『風除けのマント』を入手するため、それを持つという商人を探しに出た。
町の北東の山はさほど遠くはなかったが、その山はかなりの絶壁であった。
「高いね……。こんな所に、商人なんているのかな?」
「ですが、他に情報はないですし」
二人は覚悟を決めて、険しい山を登り始める。
川を越え、岩を越えたあたりで雨が降り始めた。
「海では嵐、山では雨かあ」
二人は慌てて、ちょうどよくあった洞窟に駆け込んだ。
「元々、嵐のせいで濡れていたので、雨宿りしなくてもいいのでは?」
「いや、せっかく乾いてきたのにまた濡れたくないからね。それに……」
コウルはエイリーンの方から目を逸らす。
雨に濡れたエイリーンの服が透けて、コウルは目のやり場に困っていた。
そんな時だった。洞窟の奥から突然声がした。
「いらっしゃいませー! アキナインの洞窟店へようこそー!」
「「えっ」」
二人は洞窟の奥を見る。
そこにはひょうきんそうな男が、様々な道具に並べて座っていた。
「あの……これは?」
「あー、お客さん。客じゃなくて雨宿り?」
雨宿りに入ったのは事実だが、なんでこんな場所にとコウル思う。
「入り口に看板置いてあったでしょ?」
男『アキナイン』がそう言うので、コウルは洞窟の入り口に出る。
そこには確かに『アキナインの店洞窟』の看板が置いてあった。
「こんな所で店……?」
「へい、人が来るタイミングではどこだろうとお店です」
「へえ……」
コウルとエイリーンは感心する。そして聞いた。
「あっ、そうだ。町の人に聞いてきたんです。『風除けのマント』ってありますか?」
「へい、風除けよマントですね。50000GTPになりやす」
「「えっ」」
二人は驚愕した。女神世界と邪神世界ではTPからSTPさらにGTPと金の単位が上がっていく。50000GTPは凄まじい高額である。
「一応、確認してみる?」
二人は持っている財布を漁ってみる。とても足りる金額はなかった。
「ないです? なら残念ながらダメで……うん?」
アキナインは真剣な表情になり、コウルの剣を見た。
「少年、その剣をちょっと見せてくれないか」
「え、はい」
コウルは腰の剣を差し出す。
アキナインは剣を抜くと、それを品定めするように眺める。
「こ、これは『サファイアミスリル』の剣ではないですかー!?」
アキナインは驚愕の声を上げた。
「『サファイアミスリル』って……?」
コウルが聞くと、エイリーンも驚いた表情で剣を見つめていた。
「聞いたことがあります。『サファイアミスリル』……。女神世界では幻と言われる金属のひとつです」
「ええ!?」
自分が持っている剣がそんなレア物だと知り、コウルも驚く。
「でも、ジンさんはそんなこと何も……」
「知らなかった……なんてことはないですよね?」
「ジンさんに限ってそんな……」
二人は考えるが、それを無視してアキナインは続ける。
「こ、この剣なら、マントと交換……いえこっちが金とマントを渡せるくらいですよ!」
「そ、そんなに?」
今は確かに風除けのマントが必要。しかしジンの形見である剣をそう簡単には渡せない。
「それに僕のメインの武器だし……」
そう。女神聖剣があるとはいえ、普段コウルはその剣を使っている。渡してしまうと予備がない。
「そうです、商人様。この剣を預けますので、しばらくこのマント貸してもらうことはできませんか?」
「へえ? まあ、うちはそれでも構いませんが」
「えっ」
あっさり許可が下りてコウルは驚く。二人は風除けのマントを一時的に手に入れた。
「でもよかったのかな。こんなあっさり貸してもらえて」
「大丈夫です」
エイリーンは言った。『アキナイン』は一部で有名な何でも屋で、その商品と商売には安全性が高いとのことだった。
風除けのマントも剣を預けている以上は、十分に貸してくれるだろうとのこと。
「でも、これでモンスター戦は女神聖剣頼みだね」
「そこはコウルを信頼しています」
二人はいつものように照れながら、町に戻るのだった。
町に戻ると、二人は早速飛び立つ。
風除けのマントを二人で覆いかぶさって。
「この被さり方、変じゃない?」
「仕方ないです。マントは一人分のサイズですから」
掴まりつつ、マントの中でもごもご動くコウル。
しかし、マントの効果は抜群だった。嵐の風が避けるように、コウル達の道を作る。
前回よりも早くモンスターの元にたどり着いた。
「うん? いつぞやの二人か。また吹き飛ばされたいようだな」
モンスターはすぐさま二人に暴風を起こす。
だがその暴風をも、風除けのマントは切り開く。
「コウル、今です!」
「うん!」
マントの下で、コウルは聖剣を取り出すと、二人で突撃する。
「はあああっ!」
二人の突撃が、モンスターを貫く。
「ぐがっ……馬鹿な」
モンスターがそのまま消えると、周りの嵐はなかったかのようにすぐに収まった。
「坊主、嬢ちゃん。本当にやりやがったのか」
町に戻ると、男が他の町人と待っていた。
「ええ、なんとか」
「風除けのマントってのが本当にあったとはなあ」
二人が外したマントを見て男は呟く。
「信じてなかったんですか?」
「いや、そうそう都合のいい物が手に入るなんて思ってなかっただけだ」
男は笑うと、他の人に呼び掛ける。
「おーし、今日は宴だ! 俺らみたいなごついのしかいないが、飲んでいけ、坊主、嬢ちゃん!」
その日、二人は屈強な男たちに囲まれ、たっぷり飲み食いさせられるのであった。
嵐のモンスターを倒し、町で宴が終わった翌日。
「……ル。……ウル」
「う、う~ん。もう食べられないよ……」
「コウル! 起きてください!」
エイリーンの声にコウルは目を覚ます。
「ど、どうしたの。そんなに寝坊した?」
「いえ、外に来てください」
言われ、慌てて外に出るコウル。すると、そこには――。
「モンスター……ポム?」
コウルの目の前で宴の後の残飯を食い荒らすモンスター。
そのモンスターの丸い形はポムそっくりだった。色が緑や、毒々しい紫な色なことを除けば。
「あれは『腐ポム』。または別名『ボム』です。ポムそっくりですが、とても食い意地の張ったモンスターです」
「そ、そうなの……」
確かに目の前で残飯を荒らすモンスターからは、とてもポムの可愛さは欠片も感じられなかった。
「追い払う――って、まだ剣を返してもらってない」
さすがに聖剣を呼ぶほどではないと思い、コウルは魔力弾を軽めに撃つ。
「ボムー!?」
「ボムー!」
腐ポムの群れは慌てふためくように、逃げ惑う。
しかし、わりとしつこく、逃げてはまた食料を漁りに戻ろうとする。
「倒した方がいいのかな? 逃げても戻ってくるよ」
「それはそれで問題が……」
エイリーンが指さした方向。町の男が剣で腐ポムを一斬りする。すると――。
「ボムー!」
腐ポムは、別名ボムのとおり、その場で軽くだが爆発した。
「うわっ!?」
爆発した一帯に腐ポムと同じ色の液体が飛び散る。
「これです……。腐ポムはやられると爆発し、液体をまき散らすのです……」
「うわあ……」
コウルは怯んだ。
腐ポムが液体を出したのが、すっかり忘れていた血を思い出させたのもあるが――。
「くさい……」
腐ポムの残した液体がすごく臭かったのだ。
「腐ポムの液体は、食べたものが混じり合ったものと聞きます……。なにを食べたらこんな臭いに……」
二人は腐ポムを追い払いながら、鼻が曲がりそうなのを堪えるのだった。
「ふう……」
数分後、腐ポム騒動は何とか収まった。
「すまねえな。昨日の今日に、モンスター退治の英雄に」
「いえ」
「それで、もう海を渡るのか?」
「いえ、まずはマントを返しにいかないと」
二人は腐ポムの臭いから逃げるように、マントを持ち山の方へ走る。
「おかえりなさいー。無事で何より。マントは無事ですかな?」
山の洞窟でそのまま待っていたアキナインは、すぐさま二人からマントを取りチェックする。
「うん傷はないね。なんかすごい臭いがついてる気もするけど」
二人はギクッとなる。腐ポム騒動の残り香がついていたのだろうかと。
「まあ、他は問題なし。剣は返すよ」
「あ、ありがとうございます」
コウルが剣を受け取る。するとすぐに、アキナインは別のものを取り出し見せる。
「ところで、この『究極臭い取り』。今なら安くしておくよ。いかがかな?」
コウルとエイリーンは顔を見合わすと、自分の服の臭いを嗅いだ。まだ少し臭い気もした二人は――。
「買います……」
その場でそれを買い、自分たちに吹きかける。確かに臭いは消えたようだった。
「これ、あとどれくらいあります?」
「うん? まだたくさんあるけど?」
コウルはアキナインから『究極臭い取り』を大量に買い込むと町に戻ることにした。
「いやあ、まさかモンスター退治の英雄から、こんなものまでもらえるとはね」
町人たちが礼を言う。腐ポムの臭いで悩んでいた町に『究極臭い取り』はなんと売れた。
コウル達は配るつもりだったのだが、その効果抜群さを知るや、町人が金を払ってくれたのだった。
「これが転売か……」
「え?」
「いや、何でもないよ」
コウルの呟きは風に乗って消えた。
「さて、じゃあ――」
「ええ。やっと海を越えれますね」
二人は海岸に立つと、いよいよとエイリーンは翼を広げた。
「いきます!」
コウルを抱えエイリーンは飛び立つ。塔のある大陸へ向けて。
「もうあとは、塔に向かうだけ?」
「特に何もなければですが」
コウルは、それはフラグなのではと思ったが、エイリーンがわからないと思い胸にしまう。
そして大陸を渡り、塔の前に付いたが――。
「これ、入れる?」
神の塔には着いた。だがその周りはまたも風、竜巻が覆っていた。
「風除けのマント、まだ必要でしたね……」
「どうだろう……。嵐と違って、入る隙間もないよ」
二人は途方に暮れる。
「エイリーンの魔力でどうにかならない?」
「いえ……。この竜巻は邪神級の魔力です。わたしでは難しいと思います……」
「そう? なら一つだけ試していい?」
コウルはそう言うと女神聖剣を呼び出す。
「はあああっ!」
魔力を込めた聖剣の一撃。聖剣の光が竜巻を包む。竜巻は――。
「ダメです。消えてません」
「そうかー……」
コウルはふらついて尻餅をつく。
「だ、大丈夫ですか、コウル」
「う~ん……。出せる魔力を全て込めたんだけどな……」
コウルはエイリーンに支えられ立ち上がる。
「無茶はいけません。全魔力なんて。死んだらどうするんですか!」
「し、死なない程度にしてるよ」
エイリーンに怒られ、たじたじなコウル。
「で、でも本当にどうする?」
「あ、そうですね。一体どうすれば……」
考える二人。その上から、竜巻に吹き飛ばされるように紙が一枚落ちてくる。
「これは――」
『エイリーン。コウル。よく来たわね。この塔に入りたいなら、かつての邪神様を封じたといわれる四つの神具が必要よ。あなたたちに見つけられるかしら?』
「これって……」
「はい、エルドリーンからの手紙のようです。かつての邪神を封じた四つの神具ですか……」
「わかる?」
エイリーンはもちろんと頷く。
「はい。今の邪神エンデナール。その前の邪神は、非道極まりなかったため、英雄に封印されたとの伝説があります。その武具のことなら……」
「手紙のとおりならそれを集めればいいんだね」
「ええ。でも信じるんですか?」
コウルは頷いた。
「他にこの竜巻を突破する方法はないんだ。嘘でも罠でもこれを信じるしかないよ」
「そうですね……では」
「四つの神具を集めに――」
「出発です!」
二人は手を掲げ宣言するのだった。