「結菜ちゃん」
言わなければ、何かを。
少しでも早く。
そう思っていると。
拓生くんに名前を呼ばれ。
身体がピクッと動いてしまった。
「俺、怒ってそういうことを言ってるんじゃないよ」
話す、何かを。
できない、なかなか。
そうすることが。
そんな私の様子。
そのことに気付いてくれたのかもしれない。
拓生くんの表情と声のトーン。
それらは穏やかでやさしく。
そんな拓生くんのおかげで少しだけ気持ちが落ち着くことができた。
「だから、
そんなに辛そうな顔をしないで」
拓生くんの気遣い。
そのおかげで取り戻しかけた、落ち着きを。
そのとき。
そっと抱き寄せた、拓生くんが私のことを。
あまりにも突然のことで。
驚いた、ものすごく。
「ただ俺は寂しかったんだ。
結菜ちゃんになかなか会えなくて」
『寂しかった』
拓生くん言葉。
切なくなってきた、その言葉を聞いて。
「それに、
椎名くんは俺と同じ立場なのに、
こんなにも環境に差が出てしまっていることも悔しくて」
「同じ立場?」
それは。
どういう意味だろう。
「あ……
いや……なんでもないよ」
思った、今。
もしかして。
気付いている? 拓生くんは。
一輝くんの私に対する想いを。
「だけど、
今やっとこうして結菜ちゃんに会えて、
結菜ちゃんに……触れる……ことができて、
俺はすごく幸せだよ」
そう言った拓生くんは少しだけ離れた、私から。
そして、じっと見つめる。
私のことを。
拓生くんにじっと見つめられ。
激しくなってきている、ドキドキが。
それだからだろうか。
だんだんと恥ずかしくなってきてしまい。
少しだけ横を向いて拓生くんから視線を外した。