* * *


 カフェを出て。

 拓生くんに『じゃあ、またね』と言い。


 今は一輝くんと二人。
 歩いている、帰り道を。





 そのとき。
 考えていた。
 横目で一輝くんのことを見ながら。

 さっき一輝くんが言った言葉。
 その理由を。


 本当は。
 あるわけではない、私と用事が。

 それなのに。
 私と用事がある。
 そう言った、一輝くんは。

 なぜそう言ったのか。


 
 訊いてみよう、一輝くんに。
 そう思った。

 少し勇気はいるけれど。


「……一輝くん」


 声は出た、なんとか。


「なぁに、結菜ちゃん」


「あのね……
 なんで、さっきあんなこと言ったの?」


「あんなことって?」


「テスト前のあたりって、
 特に一輝くんと用事があるわけではないよね。
 なのに、どうしてあんなことを言ったのかな、って」


 言えた、なんとか。


 あとは一輝くんからの返答を待つ。


「…………」


 言ってくれる、何か。
 そう思っていた。


 だけど。
 一輝くんからの返答はなく。



 なぜ無言なのか。
 わからない、全く。


 無言でいられたら。
 わからなくなってしまう、どうしたらいいのか。


「……一輝くん……?」


 耐えられない。
 一輝くんの無言。

 なので。
 声をかけた、一輝くんに。


「……結菜ちゃん……
 何もわかってないんだ」


「え?」


 一輝くん。
 やっと出してくれた、声を。

 そう思った。
 だけど。
 一輝くんの言葉。
 正直なところ、理解に苦しむ。


『何もわかっていない』
 それは、どういう意味?


「なんで僕がそんな噓をついたのか」


 自覚していた、一輝くんは。
 自分が噓をついている。
 そのことを。