「結菜ちゃん、先輩の家におじゃまするのは迷惑になるよ。
 テスト勉強なら僕と一緒にやろうよ。
 小学生のとき、よく一緒に勉強したじゃない」


 少しでも早く。
 しなければ、返答を。
 拓生くんに。

 そう思い。
 焦りを感じ始めた。





 そのとき。
 一輝くんが言った、そんなことを。

 確かに。
 小学生の頃、よく勉強していた。
 一輝くんと。



 だけど。
 正直なところ。
 今、それを言われても……困る、かな。

 一輝くんには申し訳ないと思うけれど。


 なぜなら。
 今言った一輝くんの言葉。
 それについて、どう返答すればいいのか。

 返答によっては。
 拓生くんに失礼になってしまうことも。


「迷惑なんてとんでもないよ。
 むしろ俺が好きで結菜ちゃんと一緒にテスト勉強をしてるんだから。
 気にしないで家においでよ、結菜ちゃん」


 拓生くんの気持ち。
 ありがたい、ものすごく。



 だけど。
 できない、即『うん』と言うことが。
 今の状況では。


 そうすると不誠実になってしまう。
 一輝くんに。

 そうなると。
 拓生くんにも同じように不誠実になってしまうのではないか。
 


「あっ、結菜ちゃん、
 確か、そのあたりって僕と用事があったよね。
 忘れないでよね」


 ならないようにする、不誠実に。
 一輝くんと拓生くんに。

 そのためには、どうすればいいのか。

 そのことが回っている、グルグルと。
 頭の中で。







 そんなとき。
 一輝くんがそんなことを言った。



 だけど。
 一輝くんと約束した、何かを。
 そんな覚えはない。

 それなのに、どうして一輝くんはそんなことを言ったのか。


 それとも一輝くんは勘違いしている?
 私と何かを約束した、と。





 って。

 違う、かもしれないっ。


 私と一輝くんが約束している。

 それは噓っ、一輝くんのっ‼



 さっき私には噓つき呼ばわりした。

 そのくせにっ。
 同じことをしているっ‼ 一輝くんもっ‼


「そのあたり用事があるの? 結菜ちゃん」


 仕方がない。
 拓生くんがそう思っても。

 一輝くんが噓をついている。
 そんなこと思わないと思うから。



 していない。
 一輝くんと約束を。

 言いたい、正直に。
 拓生くんに。


 だけど。


「そうだった、
 一輝くんと用事があることをすっかり忘れてた。
 ごめんね、一輝くん。
 それからごめんね、拓生くん、
 今回もせっかく誘ってくれたのに」


 合わせる、話を。
 一輝くんに。

 そうするしかない。
 そう思った、なんとなく。


「そうなんだね。
 残念だけど、用事があるなら仕方ないね」


「本当にごめんね、拓生くん」


「いいよ、気にしないで」


 そのほうが済みそう、穏便に。
 そう思ったから。



 わからない、はっきりしたことは。


 だけど。
 わかることもある。

 今の一輝くんと拓生くんの会話。
 あったから。
 目に見えないトゲのようなものが。