そうだ。
一応、一輝くんにも紹介しなくては。
拓生くんのことを。
一輝くんが拓生くんのことを知っている。
そのことを知らない、拓生くんは。
だから形だけでも紹介しなくては。
一輝くんに拓生くんのことを。
そうじゃないと。
拓生くんに思われてしまう、不自然に。
なんで自分のことを知っているのだろう。
一体いつどこで知ったのだろう、と。
もちろん拓生くんは知らない。
私と一輝くんが一緒に暮らしている。
そのことを。
それから。
このことも知らない、拓生くんは。
前に見かけた、一輝くんが。
私と拓生くんが一緒にいる。
そういうところを。
言っていた、一輝くんが。
私と拓生くんが一緒にいる。
そういうところを見た、と。
そのときの一輝くんは、まだ知らなかった。
拓生くんの顔も名前も。
なので一輝くんに話した。
拓生くんのことを。
同じマンションの同じ部屋。
その場所で話した。
一輝くんに拓生くんのことを。
なんて口が裂けても言えない。
「一輝くん、こちら市条拓生くん。
私や一輝くんと同じ高校で私と同級生」
一輝くんは初めて拓生くんのことを見る。
だから一輝くんに紹介する。
拓生くんのことを。
なぜ一輝くんにそうしているのか。
わかってくれる、一輝くんは。
だから一輝くんも合わせてくれる、話を。
そう信じている。