「そんなことあるわけないじゃないっ」
出た、やっと。
声が。
なかなか出すことができなかった。
その反動だろうか。
思ったよりも勢い良く声が出た。
その勢い。
それに押されるように言った、きっぱりと。
「証拠は?」
言えた、なんとか。
だけど。
そう訊かれてしまった、一輝くんに。
思っていなかった。
一輝くんにそんなことを訊かれるとは。
「その男友達に
抱かれていない証拠はあるの?」
ショック。
一輝くんにそう訊かれて。
「証拠って
『そんなことない』って言うだけじゃダメなの?」
ショックな気持ち。
そうなりながらも必死に言った。
一輝くんに。
「…………」
それなのに。
一輝くん、どうして黙ってしまうの?
何か言って、一輝くん。
そうじゃないと。
できない、耐えることが。
「……消してしまいたい……」
やっと。
話してくれた、一輝くんが。
だけど。
『消してしまいたい』
わからない。
その言葉の意味が。
一輝くん。
一体何を消してしまいたいの?
「その男友達のぬくもりを」
ぬくもり?
「僕がその男友達のぬくもりを
すべて消してしまいたい」
まだ、わからない。
一輝くんの言葉の意味が。
拓生くんのぬくもり。
消す? 一輝くんが?
そう思っている。
その間にも来る、私の方に。
一輝くんが。
「えっ⁉ ちょっと一輝くん⁉」
それは一瞬のこと。
一輝くんが急接近。
そのあとすぐ。
私の身体が浮いた、ふわっと。
そして。
そのまま一輝くんの部屋の方へ。
「一輝くん⁉
一体どうしたの⁉」
「…………」
一輝くんは無言のまま。
ただ表情は。
抑えている、怒りを。
その様子が伝わった、ものすごく。