確かに。
 正直に言った。
 そのことは良かった。



 だけど。

 一輝くんの表情(かお)を見ている。
 そうすると複雑な気持ちになってくる。


 なぜなら。
 今の一輝くん。
 怖い表情(かお)から悲しそうな表情(かお)になっているから。


「で、どこに行ったの?
 その男友達と」


 どう返答すればいいのか。
 一輝くんの質問に。



『家に行った』
 そう正直に言う。

 そのとき。
 一輝くんの反応は?


 言いづらい。
 それを思うと。


「まさか、家?」


「……っ‼」


 返答に困っている。

 その間に訊かれてしまった。
 一輝くんに。


「やっぱり」


 そう言った一輝くんの表情(かお)
 悲しそうな表情(かお)に加え。
 辛そうな表情(かお)も。


 拓生くんの家に行った。
 当たっている、そのことは。

 だから、できなかった。
 何も言うことが。


「……れたの……?」


 何も言えずに困っている。

 そのとき。
 何かを言った、一輝くんが。


 だけど。
 わからなかった、何を言っているのか。


「ごめんね、一輝くん、
 よく聞こえなかった」


 そう言ってみた、一輝くんに。

 だけど一輝くんは口を開いてくれなかった。



「……抱かれたの……?」


 少し経って。
 それから口を開いた、一輝くん。


 だけど。
 一輝くんが言った言葉。
 その言葉が、あまりにも衝撃的で。


「その男友達に」


 出てこない、言葉が。


『抱かれていない』
 解決するかもしれない。
 その言葉を言えば。

 それなのに。
 出てこない、その一言が。


「答えて、結菜ちゃん」


 出てこない、言葉が。
 その間にも一輝くんの言葉が続いていく。

 そのときの一輝くんの表情(かお)
 含んでいる。
 悲しそうな表情(かお)に怒りを感じるような表情(かお)が。