「結菜ちゃん」
どうしよう。
迷っている。
一輝くんの質問。
その質問に噓をつく方がいいのか。
迷っている?
なぜ?
一輝くんが不機嫌そうにしている。
だから一輝くんに噓をつくの?
一緒にいた。
その人は男子ではなく女子だよ、って。
だけど。
嘘をついても仕方がない。
「うん、
男の子だよ」
だから。
勇気を出して一輝くんにそう返答した。
一輝くんはどう答えるのだろう。
ドキドキしながら待つ。
一輝くんの返答を。
「やっぱり」
え。
やっぱり、って?
「僕の見間違いじゃなかったんだ」
見間違いではない?
何を?
「そうだったらいいと、
どんなに思ったことか」
わからない。
一輝くんが何を言っているのか。
「見かけたんだ。
結菜ちゃんが同じ高校の制服を着た男子生徒と歩いているところを」
驚いた、ものすごく。
見かけていた、一輝くんは。
拓生くんと一緒に歩いているところを。
それと同時に。
よかった。
一輝くんに噓をつかなくて。
そう思った。
女の子と一緒にいた。
そう言っていたら。
噓だということ。
あっという間にバレてしまう。
一輝くんに。
そうしたら一輝くんに信用されなくなり。
何を言っても一輝くんに信用してもらえなくなってしまうところだった。
やっぱり正直に言ってよかった。
改めてそう思った。
そのはずなのに。
なんだろう。
この変な気持ち。