* * *


 拓生くんの家を出た。



 さっきの拓生くん。

 今まで知っている拓生くんとは違っていた。


 さっきの拓生くんは。
 友達の拓生くん。
 ではなく。
 一人の男の人だった。





 そういえば。

 帰りが晩くなる。
 そう一輝くんにメッセージを送った。

 そのときの一輝くんからの返信メッセージ。
 その内容では買い物をしておいてくれる。
 とのことだった。


 なので、まっすぐ帰ることができる。



 買い物をしなくてもいい。
 それは、すごく助かるな。
 そう思いながらマンションへ向かった。



「ただいま」


 玄関のドアを開け。

 一輝くんに、ただいまの挨拶をする。


 だけど。
 一輝くんの声が聞こえない。

 たぶん一輝くん(自分)の部屋にいるのだろう。


「なに? 今帰り?」


 そう思ったとき。
 一輝くんが部屋から出てきた。

 のだけど。


「うん」


 一輝くんの様子。
 その様子に戸惑ってしまう。


「ずいぶん晩かったじゃん」


 ずいぶん?
 そこまで晩くはないと思うのだけど。


「そうかな」


 一輝くんの様子。
 まだ戸惑ってしまう。

 なぜなら。
 今の一輝くん。
 かなり不機嫌そうだから。



 なんか。
 一輝くんの表情(かお)が……。

 できない、まともに見ることが。
 一輝くんのことを。
 怖い表情(かお)をしているから。


 いつもの穏やかでやさしい一輝くん。
 そのときの表情(かお)とは全く違う。