「いないよ、彼氏」
そう。
「本当?」
私は。
「本当だよ。
そんなこと噓を言ってどうするの」
一輝くんと。
「そっかぁ、よかったぁ」
恋人同士ではないから。
「拓生くん、
なんで私に彼氏がいなくて『よかった』なの?」
「あっ、いや、なんていうか……」
なぜか拓生くんは少しだけ慌てているように見える。
「とにかく彼氏がいないならいいじゃん、
結菜ちゃん、俺の家に来てよ」
やけに積極的な拓生くん。
「うん」
そんな拓生くんの積極さ。
それに流されてしまった。
だけど。
いるわけではない、彼氏が。
だから。
行ってもいい、拓生くんの家に。
私と一輝くんは。
違うから。
恋人同士とは。
「結菜ちゃん?」
いつの間にか。
入っていた、自分の世界に。
拓生くんに声をかけられ我に返った。
「どうしたの?
なんか、ぼーっとしてるみたいだから」
拓生くんは心配そうに私の顔を見ている。
「そんなことないよ」
心配かけたくない、拓生くんに。
なので、なんとか笑顔を作った。
「本当に大丈夫?」
やっぱり気遣ってくれる拓生くん。
「うん、大丈夫。
ありがとう、拓生くん」
そんな拓生くんに、もう一度、笑顔を作った。
「大丈夫ならよかった」
やっと少し安心した様子の拓生くん。
その様子を見て、ほっとした。