「結菜ちゃん?」


 不思議そうな表情(かお)をしている拓生くん。

 いつもの私の様子とは違う。
 そのことに気付いたみたい。


「どうしたの?」


 やっぱり。
 気付いている、拓生くんは。



 拓生くんに訊かれている。
 だから何か話さなければいけない。

 そう思っても。
 何を話せばいいのか。
 全く思いつかない。


 だけど。
 このまま無言というわけにもいかない。


「なんか悪いよ」


 だから。
 なんとか返答した。



 この返答。
 それが適切なのか。
 それは、わからない。


 だけど。
 そう返答する。
 それだけで精一杯だった。


「なんで悪いの? 
 テスト前の勉強のときには
 よく俺の家で勉強してるでしょ」


 確かに。

 今までは。
 あまり気にすることなく。
 拓生くんの家におじゃましていた。


 だけど。


「うん、
 そうなんだけど……」


 一瞬。


「だから今日だって
 テスト前の勉強じゃないというだけで
 何も変わらないんじゃない?」


 頭に浮かんだ。


「そうかもしれないけど……」


 一輝くんの顔が。


 そうしたら。

 躊躇ってしまった。

 拓生くんの家に行く。
 そのことを。