「ねぇ、結菜」


「なぁに、彩月」


市条(いちじょう)くんが結菜のこと呼んでるよ」


 彩月が教室の戸の方を示している。

 なので私も彩月が示す方を見た。


 そこには(市条)拓生(たくみ)くんが。



 気付かなかった、全然。
 彩月に言われるまで。

 もしかしたら。
 自分の世界。
 その中に入り込んでいたから?


 そう思った。
 だけど今は拓生くんのところに行く。
 そのことを優先しよう。


「ありがとう、教えてくれて。
 じゃあ、ちょっと拓生くんのところに行ってくるね」


 気持ちを切り替え。 
 彩月にそう言い。
 席を立とうとした。


「ねぇ、結菜~。
 市条くんってさ、結菜によく声かけるよね。
 ひょっとして市条くん、結菜のことが好きなんじゃない?」

 
 席を立ちかけた。
 だから腰が中途半端なところで止まっている。

 その態勢で聞いた。
 小さめの声で話した彩月の話を。


「何言ってるの、
 そんなわけないでしょ。
 拓生くんは友達なんだから」


 それは本当のこと。


「ふ~ん、そう?」


 だけど。
 彩月の表情(かお)
 その表情(かお)はニヤリとしている。


「そうなの。
 拓生くんは友達なの。
 じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 彩月にそう言い、拓生くんのところへ。