「きゃっ」
突然の感触。
それに驚き。
思わず出た、声が。
「結菜ちゃん」
一輝くんの頬。
そこに触れている私の手。
その手に重なった、やさしく。
一輝くんの手が。
「おはよう、結菜ちゃん」
穏やかで、やさしい。
一輝くんの声。
その声が耳に入り。
全身を包み込む。
心地よい、そんな感じになる。
「おはよう、一輝くん。
ごめんね、起こしちゃった?」
心地よい、一輝くんの声。
そんな感じになりながらも。
一輝くんの頬に触れた。
そのことにより起こしてしまったかもしれない。
一輝くんのことを。
それが気になってしまい。
訊いてみた、一輝くんに。
「ううん、起きてたよ」
「えっ⁉
起きてたの⁉ いつから⁉」
起きていた。
という、一輝くんの返答。
その返答に驚いた。
起きていた、私も。
私の場合は。
眠れていない、ほとんど。
一輝くんは?
どれくらい起きていたのだろう。
「いつから、というか、
僕、ほとんど寝てないから」
「えっ⁉」
寝ていないっ⁉
一輝くんもっ⁉
それじゃあ。
私と一輝くん。
お互いに知らなかった。
というだけで。
実は起きていた、私も一輝くんも。
それを知った瞬間。
なんだか恥ずかしくなってきた。
「だって」
「だって?」
「こんなにも可愛い結菜ちゃんが隣で寝てるんだよ。
ドキドキして眠れるわけないよ」
私と一輝くん。
知らなかっただけで。
実は起きていた、二人とも。
恥ずかしくなってくる。
それだけでも。
それなのに。
『可愛い結菜ちゃん』
『ドキドキして眠れるわけがない』
それらの言葉を言われた。
一輝くんに。
それは。
恥ずかしい。
なんてものではないっ‼
だから。
一輝くんっ。
言わないでっ‼
そんなにも恥ずかしいことをっ‼
そんな気持ちでいっぱいになった。
「だけど、
起きてて正解」
「え?」
「結菜ちゃんが、
こんなにも可愛いことしてくれるところを
感じることができたから」
「え?」
「僕の頬にやさしく触れてくれるなんて、
すごく可愛い」
「そうかな」
恥ずかしい。
それを通り越し。
わけがわからなくなっている。
そんなとき。
一輝くんにそう言われ。
さらに、わけがわからない気持ちになってしまった。
それでも。
なんとか必死に平静を装う。
そのことに専念した。