「だから結菜ちゃんに変な虫がつかないか、
 とても心配になる」


 一輝くんはそう言うと。
 より強く私のことを抱きしめた。


「僕がいる。
 僕がずっと結菜ちゃんのそばにいるから」


 これは。

 どうしよう。


 私。
 すっかり一輝くんのぬくもりに。



 まずい。

 このままでは。


「一輝くん」


「なぁに、結菜ちゃん」


「やっぱり自分の部屋で寝るから」


 やっぱり。
 それがいい。

 というか。
 そうするべき。


 そうじゃないと……。


「行かないで」


 少しでも早く。
 離れないと、一輝くんから。
 そう思いながら動かす、身体を。

 だけど。
 私を抱きしめている一輝くんの腕の力。
 それの方が大きく勝り。
 できない、動くことが。

 
「僕は結菜ちゃんと離れたくない」


 完全に。
 包み込まれてしまった、一輝くんに。


「ほら、一緒に寝なくても、
 私と一輝くんは一緒に暮らしてるんだから離れてないよ」


 説得。
 みたいな感じになってしまっている。



 だけど。
 私と一輝くんは一緒に暮らしている。
 同じマンションの部屋で。

 だから。
 離れていないと思う。
 私と一輝くんは。


 それは本当のこと。

 だから。
 離れている、私と一輝くんが。
 そう思う必要は全くない。

 わかってもらいたい、そのことを。
 一輝くんに。


「嫌だ……
 結菜ちゃんと一緒に寝ないと、
 僕は元気が無くなって明日を生きていけない」


 離れていない、私と一輝くんは。
 わかってもらいたい、そのことを。
 そう思いながら伝えた。


 はずなのにっ。

『明日を生きていけない』
 一輝くんの、ものすごい発言っ。


 そんな言葉を聞いてしまったら。
 これ以上、思いつかないっ。
 一輝くんに言う言葉がっ。



 今日の一輝くん。
 というか。
 二年ぶりに会った一輝くんは。
 やっぱり今までの一輝くんじゃないっ‼





 って。

 一輝くんっ⁉


 今度は何を⁉