「……彼氏……」


 一輝くんが訊いたこと。
 それは私に彼氏がいるのかどうか。

 一輝くんの様子は不安そうな感じに見える。


 そんな一輝くんのことを見ていると。
 なんだか少し気の毒になってくる。


「いないよ」


 気の毒、一輝くんが。
 そう思った。
 だから、すぐに返答した。


「本当?」


 だけど。
 一輝くんの不安。
 それは消えていない。
 そんな感じに見える。


「うん」


 一輝くんが感じている不安。
 それを和らげたい、少しでも。
 そう思った。

 なので返事をした。
 はっきり『うん』と。


「ほんとに本当?」


 一輝くんの不安。
 それは消えた。
 そう思ったけれど。

 一輝くんは、まだ不安が残っているように見える。


「そんなこと噓をついてどうするの」


 こう言った。

 だから。
 今度こそ。
 伝わったよね?


「そうだけど……」


 伝わる、ちゃんと一輝くんに。

 そう思ったけれど。
 一輝くんは、まだ引っかかっている様子。


「だって」


「だって?」


「こんなにも可愛い結菜ちゃんだよ。
 男だったら、そんな結菜ちゃんのことを相手にしないわけないよ」


『こんなにも可愛い』
 その言葉は嬉しい、ものすごく。

 だけど。
 それと同時に恥ずかしさも込み上げてくる。


「そんなことないよ、私なんか。
 一輝くん、褒め過ぎだよ」


 褒め過ぎ。
 本当にそう思った。
 だから一輝くんにそう言った。


「褒め過ぎなんかじゃない。
 結菜ちゃんは誰から見ても魅力的な女性だよ」


 褒められ過ぎる。
 そうすると、やっぱり恥ずかしい。


 一輝くんのその言葉。
 それが、とてもこそばゆい感じがする。