「逃げてないなら、
 夜に何があるのか教えてよ」


 歩き始めている一輝くんに。
 訊いた、しつこく。


「それは夜までのお楽しみって言ったでしょ」


 やっぱり教えてくれない、一輝くん。


「もぉ~っ、一輝くんの意地悪~っ」


 そんな一輝くんに。
 膨らませる、頬を。


「あははっ‼」


 そんな私を見て。
 大笑いの一輝くん。


「もぉ~、何がおかしいのぉ~」


 そうして。
 より膨らませる、頬を。


「ほんと可愛いな~、結菜ちゃんは」


 頬を膨らませれば膨らませるほど。
 一輝くんは私のことを『可愛い』と言って頭を撫でてくる。


「別に可愛くないもん」


 最終的には。
 膨らませる、プーッと。
 風船のように頬を。


「はいはい、よしよし」


 撫で続ける、やさしく。
 一輝くんは。
 そんな私の頭を。


 なんか。
 かわされてしまった、うまく。
 一輝くんに。



 * * *


 そして。
 覚悟の夜。



 どうしたのだろう。 
 今夜の一輝くん。
 いつもよりも……。


 その先は。
 言えない、恥ずかし過ぎて。





 そして。
 続いた、それは。
 夜が明けるまで。