「じゃあ、俺はそろそろ行こうかな」
拓生くんはベンチから立ち上がった。
そして私と一輝くんに「じゃあ」と言い、歩き出した。
見ている、拓生くんが歩いて行くのを。
って。
いいのか、本当に。
それで。
ううん。
いいわけがない。
いけない、それでは。
「拓生くん」
だから。
呼び止めた、拓生くんのことを。
ベンチから立ち上がって。
「うん?」
私の呼びかけに。
拓生くんは立ち止まり振り向いて。
やさしく返事をしてくれた。
「また学校でね」
そんな拓生くんに。
そう言った、いつものように。
「ああ、また学校でな」
言ってくれた、拓生くんも。
いつもの笑顔で。
そんな拓生くんのことを見て。
痛んだ、ズキンと。
胸の奥が。
だって。
拓生くん、本当は笑顔でいられる状態ではないはずなのに。
そう思っているとき。
拓生くんは再び歩き出した。
そんな拓生くんを私と一輝くんは静かに見送った。