「知ってたよ」


 え。


「結菜ちゃんと椎名くんのことは耳にしていた」


 やっぱり。
 耳にしていた、拓生くんは。
 私と一輝くんが恋人同士なのではないか。
 そういう話を。


「クラスの女子たちが噂話として話してた」


 確かに。
 不思議なことではない。
 拓生くんの耳にも入るのは。

 その話は結構な範囲まで広まっていたみたいだから。


「でも俺は
 そんな話、信じなかった。
 ……信じたくなかった」


 拓生くんの言葉。


 どうしよう。


「ただの噂話だったら、
 どんなによかっただろう」


 見つからない。

 返す言葉が。


「でも。
 意外とスッキリした。
 結菜ちゃんから直接聞いたら」


 どう言えばいいのだろう。
 こういうときは。


 そう思いながら。
 見てみる、チラッと。
 拓生くんのことを。



 今は。
 できる、なんとか。
 捉えることが。
 拓生くんの表情(かお)

 少し悲しげ。
 だけど。
 その中にも見えた。
 少しだけ笑顔が。