なんというタイミング。


 作っている、×印を。

 そのとき。
 来た、待ち合わせ場所に。
 拓生くんが。


「結菜ちゃん、どうしたの?
 両腕で×印を作って」


 驚いた表情(かお)をしている、拓生くん。


「あっ、あのっ、あのねっ。
 なんか身体を動かしたくなって、
 ちょっと体操をしていたのっ」


 なんという苦しい理由。

 こんな理由で拓生くんが納得してくれるわけが……。


「そうだったんだ」


 えっ⁉

 納得してくれた⁉





 って、違うよね。


 そうしてくれたのは。
 優しさ、拓生くんの。



 そんな拓生くんに言った、心の中で。
『ありがとう』と。



「あっ、立ち話もなんだからっ。
 あそこのベンチに座ろうかっ」


 見られてしまった、拓生くんに。
 ×印を作っているところを。

 その恥ずかしさ。
 残っている、少しだけ。


 だけど。
 言ってくれた、拓生くんは。
 何事もなかったように「そうだね」と。







 ベンチの方へ向かっている。


 そのとき。
 言った、拓生くんに。
「今日は時間を作ってくれて、ありがとう」と。

 拓生くんは「いいよ、気にしないで」と言ってくれた。





 って。

 あれ?


 緊張していた。
 拓生くんのことを待っているときは。

 だけど。
 今は少しだけ和らいでいるような気がする。



 確か。
 一輝くんとメッセージのやりとりをしていた。
 そのあたりからだったような。



 あっ。
 もしかして。

 一輝くんがここに来た。
 その理由は。
 緊張を少しでも和らげてくれるため?


 そう思った、一瞬。

 だけど。
 そんなことはない、かな?