「……ごめん、一輝くん、
 やっぱり、それは……」


 一輝くんが心配する。
 それは、わからないわけではない。







 だけど。
 拓生くんのことを考えると……。



 拓生くんに大切な報告をしている。

 そんなときに。
 見ている、一輝くんが。
 離れたところで。


 そのことを拓生くんが知ってしまったら。
 どんな気持ちになるのだろう、拓生くんは。

 そのことを思うと……。





 一輝くんが私のことを心配。
 それだからといって。
 私と拓生くんが話をしている。
 そういうところを隠れて見る。
 というのは……。


「……なし……だよ……」


 そうじゃないと。
 失礼過ぎる、あまりにも。
 拓生くんに。







 何分経っただろう。
 一輝くんに『なし』と言って。



 その間、一輝くんは無言のまま。


 本当は経っていないと思う、そんなには。

 ただ感じているだけ、気持の中で。
 何分か経った、と。





 待ってみよう、もう少しだけ。

 一輝くんが話しかけてくれる。
 そのことを。



「……結菜ちゃん」


 やっと話しかけてくれた。
 一輝くんが。


「わかったよ」


 よかった。 


「結菜ちゃんと市条先輩が二人だけで会うことは、
 ものすごく心配だけど」


 わかってくれた。


「ありがとう、一輝くん」