回っている、グルグルと頭の中で。
 そんなことばかりが。



 そのとき。

 それは。
 あまりにも突然のことで。

 驚きを通り越し。
 わからなくなってしまっている、なにがなんだか。


 なぜなら。

 私の両腕を掴んでいる一輝くんの両手。
 それらが私の両腕から離れた。

 かと思ったら。
 その両手が私の頬を挟んだから。





 わけがわからない。
 なぜ一輝くんに頬を挟まれているのか。

 そう思っている間にも。
 向けられていく、私の顔。
 一輝くんの方に。


 見える、はっきりと。
 一輝くんの顔。

 それと同時に。
 見えている、はっきりと。
 私の顔も。
 一輝くんに。



 なぜ向けるの?
 私の顔を一輝くんの方に。


 できない、今は。
 見ることが。
 一輝くんの顔を。


 見ないでほしい。
 私の顔を。

 お願いっ、一輝くんっ。



「結菜ちゃん」


「……見ないで」


「え?」


「見ないで‼ 一輝くん‼」


 大きくなってしまった、声が。
 思ったよりも。



 だけど。
 気にする。
 そんな心の余裕は全くなく。

 とにかく抜け出したい。
 この状況から。

 そう思いながら。 
 私の頬を挟んでいる一輝くんの両手を離し。
 離れよう、一刻も早く。
 一輝くんから。

 そうして戻ろう、自分の部屋に。


 そう思っている。
 それなのに。  
 一輝くんの両手は。
 私の頬から。
 また私の両腕に。


「結菜ちゃん?
 一体どうしたの?」


『どうしたの?』って。

 その言葉を言うなんて。



 思っていた。
 いろいろと鋭いと。
 一輝くんは。

 それなのに。
 なんで今はそんなにも鈍いの?





 そんなの。
 決まっているじゃない‼
 どうかするにっ‼


 一輝くんが。
 他の女の子と会っていた。

 それなのに。
 平気でいられるわけが……。



 え?

 なにこれ。


 なんで涙が……。


「結菜ちゃん⁉」


 見える、ぼやけて。
 一輝くんの顔が。


「なんで泣いてるの?」


 なんで、って。


 理由は一輝くん、君なんですけど‼


「泣いてなんかない」


 一輝くんが理由。

 そう思っていても。
 強がってしまう、こうして。


 本当は。
 泣きたいくせに。
 今すぐにでも。

 そうして。
 飛び込みたい、そのまま。
 一輝くんの胸に。