人間とあやかしが共生する時代。
 文明開化が目覚ましい現在よりも遙か大昔、国同士の戦争により甚大な被害を受けた人々は悲しみに暮れた。
 そんな心体が荒んでいく人々の前に瘴気を放つ祟り神が現れた。
 絶望の状況に混乱する人間達を助けたのは陰で生きていたあやかしだった。
 あやかし達は己自身がもつ強大な力で祟り神を退治し、いつしか人間達から崇められるようになった。
 以降、お互いの確固たる繋がりを確立するため、時にあやかしは人間の娘から花嫁を選ぶ。
 あやかしが花嫁となる運命の娘の瞳を見ると恋い焦がれるような感情が湧くとされその現象は『懸珠の結び』と言われている。
 あやかしに選ばれた花嫁は生涯にわたって愛され、地位と財力に恵まれた幸せな暮らしをおくれる、世の女性にとって憧れの存在だった。
 あやかしの中でも頂点に立つのは鬼。
 鬼の当主はその強き力から別名、鬼帝とも呼ばれあやかし達を率いてきた。
 しかし、ここ数十年の間、鬼の花嫁となる人間は現れなかった。
 誰もが期待などしていなかったが、ある出逢いが一人の少女の運命を大きく変えていく。