再び青白い光の中、体が宙に浮いたような感覚の後、俺は足裏に固いアスファルトの感触を得た。

 俺達を囲っていた触手が光の粒となって消えていき、視界を取り戻して目を開ける。

 そこは制星教会本部目の前にある、歩道のど真ん中だった。

 だが何かがおかしい。確か俺達が制星教会のビルから出たのは夜だったはず。なのに空は青く晴れ渡っている。

「一体どうなってる? 元の時間に戻ったわけじゃないのか?」

「見て!」

 真姫はうろたえる俺に携帯を見せる。

 そこには十二月二十四日の午前十時と表示されている。そんなはずは無い。俺達が正人の墓に行ったのは十二月二十日。そしてその日の夜にビルを出たはずだ。

「これも何か意味があることなのか?」

 俺はあの星の使徒がわざと戻す時間を変えたのではと内心疑う。何となくだがミスをするようには思えなかった。

「どうなのかな? でもとりあえず一回桐ヶ谷さんに……」

 振り返ってビルの方を向いた真姫は、そう言いかけて黙ってしまった。

 俺も振り返ると、真姫の視線の先にはその桐ヶ谷本人が立っていた。それも仁王立ちで。

「お前達、ここにもう一度戻ってくるとは大した度胸だな!」

 桐ヶ谷は明らかに怒っている。それに今何て言った? まるでこの場所に戻ってくること自体がおかしいみたいではないか。

「すみません。話が見えないのですが……」

 俺は酷く困惑する。桐ヶ谷が俺達に向ける眼差しは、犯罪者に向けるそれだった。

「荒木から聞いたぞ? お前達が我々に隠していることを!」

 ああそうか。そういうことか。荒木の奴、話したのか。まあ話すよな。話せば自分の友人二人が死んだのは、俺達のせいだと言えるから。だが、そう易々と認めるわけにはいかない。俺が何のために隠してきたと思っている!

「荒木さんが言ったことをそのまま信じたのですか? あんな荒唐無稽な話を? あれは作り話で……」

「黙れ! 下手な言い逃れは許さん! あんな作り話を正人の墓前でするような奴ではないだろお前は! それにもう一度小西真姫の血液サンプルを検査し直したら、驚くべきことが分かった」

 俺は額から汗が流れているのを感じる。十二月の冬の外気が、汗で濡れた額を冷たく拭う。

「血液だけの状態であっても、小西真姫の血液は命の寿命を吸い取り続けていることが判明した。これは今までにない発見だ。この結果から、お前達の過去の選択の話の信憑性が増したわけだ。加えてお前達はここ数日間、音信不通だった。もしも本当にお前のほら話なら、逃げ出す必要などないだろ」

 痛いところをついてくる。それにしても血液だけになっても星の寿命を吸い続けるとはな……大した生命力だ。しかしどうする? 星の使徒が戻す時間を変えたことで、話が悪い方向に進んでいる。

「いや、逃げてなんて……」

 逃げてないなんて言えるか? 状況的にはどう言い繕ったところで無理がある「星の使徒に過去に飛ばされてました」なんて言おうもんなら、余計ややこしくなるし、それこそ十年前のあの日が本当だったと宣言しているようなものだ。


 こうなったら……

「逃げるぞ!」

「うん!」

 俺は隣に立つ真姫の手を握って走りだす。

 俺達が振り返って走り出した瞬間、一歩先の地面に銃弾が突き刺さる。

「なっ!?」

 驚いて振り返るが、桐ヶ谷は銃をもってはいない。じゃあ一体誰が? 確かに銃弾の角度からして、同じ高さに立っている桐ヶ谷が撃ったわけではなさそうだ。もっと高いところからだ。

「逃がさねえよ」


 声のする方に視線を向けると、すぐそばの歩道橋の上に荒木が立っていた。墓地で話をした時よりも目が血走り、クマが濃くなっている。顔も青白く、体はやせ細っている。

「なんでここに!」

「なんでってか? そんなもんお前達を逃がさないためさ! もう俺には何も残ってやしないんだから……」

 荒木は明らかに正気を失っている。一体この数日間に何があった?

「お前達は知らないだろうな~先日沙也加も逝ったよ。それはもう綺麗に崩壊しちまった……ヒデェだろう? あっという間だったぜ? キャハハハ!!!」

 姫路も犠牲に? だからより一層おかしくなったのか?

「だからよ~お前達が原因なんだろう? いや、正確に言えば真実なんてどっちでも良いんだよ……ただ俺がそう信じてるだけなんだぜ? だからさ、正人や星野、それに沙也加の仇を撃たなきゃと思ったんだよな~だから俺は今、ここに立っている!!」

 大声で喚く荒木に目を向けていると、道行く一般人達が集まってきていた。

 時間帯的には人がそんなに多く出歩いている時間では無いのだが、あれだけ天下の往来で騒げば目立つのは当たり前だ。

「事実かどうかは我々が判断することだ。そして、我々制星教会は事実と認定した」

 桐ヶ谷が荒木に代わって説明をする。

 冗談じゃない。捕まったら何をさせるか分かったもんじゃない。しかし逃げようにも荒木がずっと拳銃でこっちを狙っている。

「おっと動くなよ~殺しちまうぞ?」

 荒木は一瞬動いた俺に照準をあわせる。

「そのまま撃ったら真姫にも当たるかもしれないぞ?」

「構わないさ。俺は確かにその女を気に入ってはいたが、手に入らないならもうどうでもいい!!」

 それを聞いた真姫は、明らかな侮蔑の色を浮かべている。

 手に入らなければどうでもいい? コイツが今狂っているせいなのか、それとも元々そういう精神性なのか? 人として大切な何かが欠落してしまっている。

「もうそこまでだ! 逃げられると思うな!」

 桐ヶ谷がそう宣言すると、警棒を持った男十数人が俺達の周囲を取り囲んでいた。皆警察官の格好をしてはいるが、全員制星教会の者達だろう。

 周囲の人だかりも、警察が出てきたことで散って行った。

「どけ!」

 俺は男達が、荒木の銃口から俺達を隠していることに気づき、走りだす。一度加速してしまえば、正確に拳銃で射貫くのは難しい。

 そう思い、一点突破を試みる。一人を足蹴にし、二人目を突き飛ばしたタイミングで頭部に衝撃が走る。

 遠ざかる意識の中振り返ると、左右から迫ってきた男達が警棒を振りかざしていた。

 そしてそれらは容赦なく俺の体に撃ち込まれていく。しかし徐々に痛みを感じなくなっていく。それと同時に意識も手放してしまった。