「星の寿命を人より多く使用している人間?」

 真姫は驚いて眠気が覚めたのか、一字一句違わず聞き返す。

 まあでも妥当な理由ではあるだろう。

 星の使徒が人を崩壊させるのは、星の寿命を解放するため。そうであれば星の寿命を多く使用している人間が狙われるのは道理。

 しかし、そんな人間が本当にいるのだろうか?

 なんとも信じられない。

 生き物には個体差がある。それは人間だって例外じゃない。体の大きさ等の身体的特徴や、遺伝的な病気や血液型等々……数え始めたらキリがないが、体の細胞をくっつけるのに使用される星の寿命も同じく個体差ということなのだろうか?

「でもそれって計測出来るものなんですか?」

 俺は桐ヶ谷に一番大事な質問を繰り出す。仮にそうだったとしても、識別できなければ意味がない。

「残念ながら、生きた人間に使われている星の寿命の計測は不可能だろう。今回のは、被害にあった者の細胞を繋ぐ星の寿命の量を平均して出したものだ。他の病気で亡くなった方達との比較で判明した」

 ということはほとんど意味がない発見だ。

 その者が多くの星の寿命を使用しているかは、解剖しなくては分からないということになる。それじゃあ救える命は変わらない。

「それと、後でメールで全員に伝えると言ったが、それは一部だけを伝えるという意味だ」

 桐ヶ谷は渋い顔でそう告げる。

 まあそうだろうな。崩壊病の正体や星の寿命については完全にシークレット。多くの人間に話してしまえば、情報漏洩の可能性も高くなる。俺達みたいに、自力で見てしまった者を除けば、秘密にするのは正しい。

「それでは一体何を伝えるんです? 星の寿命について話せないのであれば伝えることなんて……」

 もしもこの発見で救える命が増えるのなら、ある程度の情報開示もやむなしだが、今回に限っては何も変わらない。星の寿命の使用量は、被害者が死んでからでないと分からない。

「皆にはこう伝える。過去に狙われた事がある人間はもう一度狙われる可能性が高い。とな」

 桐ヶ谷はそう口にした。

 そうだ盲点だった。

 過去に狙われて生還した人間は、本部の仮説が正しければ星の寿命の量が多い人間ということになる。過去に俺たちに救出された人は、本部で今回の件に関しての守秘契約をして、普通の生活に戻されている。

 つまりなんとか助けれたとしても、再び狙われ続ける。

「それじゃあ助けれたとしても……」

 もしこの仮説が正しかった場合、一度救出出来た人の今後について考えなくてはいけなくなる。最適なのは一か所に集めて見守りながら生活してもらうことだが、そんな人権を無視したことなど出来るはずもなく、一度狙われた人、一人一人に監視をつけるのも現実的ではない。

「ああ。再び狙われる。これは終わりのない戦いだ」

 桐ヶ谷の声はいつもより固い。

 それもそうだ。これではジリ貧。解決は遠く、ただただこちらだけが疲弊し、摩耗する。

「それでも、守り続けるしかないわ!」

 お通夜ムードだったこの場で、真姫だけがそう息巻く。

 でも真姫の言う通り。俺は十年前の選択を、真姫はあの時生き残ったという事実を、それぞれ受け入れて生きなければならない。そうである以上、そう簡単に沈んでいられない。

「とりあえず伝えたからな。救出した人の今後については、政府とも協議する。だからお前たちは早く休め」

 そう言い残し、桐ヶ谷は去っていった。

「今から帰る?」

「もう夜も遅いし、ここのベッドで良いんじゃない?」

 真姫はそう言ってたった一つのベッドを叩く。

「一緒に寝るつもりか?」

「嫌だった?」

「嫌じゃないけど……」

 もちろん嫌じゃない。ぶっちゃけて言えば嬉しいに決まってる。

「じゃあ良いじゃない、たまには」

 真姫はそう言って強引に俺の手を引き、ベッドに引きづりこむ。

 若干狭いが、なんとか寝れる程度の広さだ。真姫が俺にピッタリくっついているお陰でもあるが……

 ベッドに俺を引きづりこんだ真姫は、そのまま俺の片腕に抱きつき体を押し当てる。

 真姫の匂いと体温に意識を奪われながらも、俺は真姫の頭を撫でる。

 正直真姫がこういう反応をするのは珍しい。真姫は可愛い系というより、どちらかというと綺麗系に属するタイプの人間だ。背も割と高いし、スタイルも良い。顔だって整っているし、普段の性格だってサバサバしている。

 そんな彼女が俺に甘えるなんて珍しい。

 この半年で、俺と真姫はほとんど付き合っている状態と言っても過言ではない。そういう関係になった。どっちから告白とかそういうことはない。俺も真姫も大人だ、なんとなくそういう雰囲気になったらそうなのだ。

「ねえ」

 俺は彼女の頭を撫でながら、震える彼女の声に驚く。

 気づけばしがみつかれている腕が湿っている。

「やっぱり私、生きてたらダメだったのかな?」

 真姫は十年前の俺の選択で生き延びた。前に話したからそれは彼女も知っている。そしてさっきの桐ヶ谷の話を聞いて、ずっと隠していた想いが発露したのだろう。今までどうにか許容できていた環境が、ドンドン悪くなっていく。救いが無くなっていく。

 それとともに俺と真姫の抱える罪悪感は、その重さを増していく。

 桐ヶ谷も無神経な事を。そう言ってやりたいが、彼は当時のことを知らない。十年前のあの出来事を知っているのは、ここで抱き合っている俺達以外には、すでに死んでしまった正人だけだ。

 こうなったら打ち明けるべきだろうか?

 だが、正人に止められていた理由が今になって分かる。

 もし制星教会に十年前の事を話したらどうなる? 俺はいまいちこの組織を信じられない。ましてや世界規模の問題になっている現在、何をされるか分かったものではない。もしかしたら解剖されるかもしれないし、真実だと確認出来てしまえば、世界中から石を投げられるかもしれない。

 それは嫌だ。

 せっかく生き延びた真姫をそんな危険に晒すような選択を俺はとれない。

「バカなこと言うなよ。選択したのは俺だ。罰せられるとしたら俺なんだ」

 俺は真姫を力の限り抱きしめ、そのまま二人して涙した。





 翌朝、目を覚ますと崩星対策室が騒がしい。

 漏れてくる声を聞く感じ、一度に複数体の星の使徒が出現したらしい。

「真姫起きろ」

 俺は隣で眠る真姫の体を軽く揺する。

「おはよーどうしたの?」

「早く目を覚ませ、星の使徒が複数出現するらしい」

「え!?」

 真姫は驚いて素早く目を覚ます。

 今まで近くに複数の出現なんてなかった。

 一体何が起きている?

 ここ半年で、アイツらの攻め方が変わってきている気がする。

「俺は先に対策室に行って、何処に向かうか決めてくるから、真姫はここで待機していてくれ」

 俺はそう言い残し、待機室を出る。

「一度に複数ですか?」

 俺が対策室に顔を出すと、四人の先輩たちがモニターと睨めっこしている。

「俺たちが一番遠くの奴を叩く。ここから飛ばせば一時間ほどだ」

 この中で一番最年長のペア、朝山、大谷ペアがそう口にする。

 彼らは最年長なだけあって、一番信頼できるペアだ。彼らを一番遠くに派遣するのは賛成だった。

「分かった。お前たち二人にあれは任せる。それと石山、菊池ペアは森林公園に向ってくれ」

「はい!!」

 桐ヶ谷の号令の下、二つのペアが急いで出撃していった。

「では俺達は最期の一つを!」

「ああ頼む。だけど良いか? 無茶はするなよ。慎重に行け」

 桐ヶ谷は俺に念を押す。

 なんでそんなに慎重になっている?

 俺はいつだって無茶はしない男だぞ?

 そう思ってモニターを見た俺は、桐ヶ谷がそう念を押した理由を理解した。

 場所はここからほど近い、閑静な住宅地のとある団地。

 俺の先輩であり、友であり、相棒だった正人が殺された場所だった。