数十年後。
「ちょっと早かったんじゃないか?」
お父さんが微笑みながら言った。
昔より、随分と皺が増え、白髪になって病院のベッドで眠る母の手を、父と私の二人で握る。
ピーッと一定の機械音が鳴り響いた。
「そうかしらねぇ。あなた達に比べたら随分と遅い方よ」
そう言いながら、体を起こして導かれるように母は浮いた。
三人で手を取り合い、同じ場所を目指す。
母は心底幸せそうな表情をしていた。
「ああ、ようやく会えたわ。ずっと会いたかったのよ。話したいことが山ほどあるの」
ずっと傍にいたものの、母にとっては何十年ぶりの再会だ。
いくらでも聞こう。時間は無限にある。
これからも、たくさん話し合っていこう。感謝と愛情を言葉にしていこう。私たち家族の時間を、もう一度補うように。
「お母さん、今までお疲れ様」
そして、おかえりなさいと言うように、三人で抱き締め合った。
太陽が、大切な人との再会を祝福するように私たちを照らす。
その体温はどこまでも包み込むように、温かかいものだった。
【完】