希空を失ってもう半年以上が経過した。依然、私たちの心は埋まらない傷を抱えたまま。

 それでも季節は巡りに巡り、2人の好きだった季節が今年もやって来た。

 2人を繋いでくれた奇跡の『秋桜』の季節が...

 桜が儚く散る頃に、娘の彼氏だった夜瀬太陽くんも静かに命を散らせ、この世を去ってしまった。

 享年17歳という若さで。私の娘と同じ歳のまま彼も旅立ってしまった。

 生前、彼は1日でも多く生きようと懸命に生きていたのを私は知っている。外にも出るようになったらしく、体調も良好だと言われていたはずだったのに、彼は突然...

 彼はもう1度、満開のコスモスを見るためだけに毎日毎日過ごしていたんだ。先に旅立っていった娘にもう1度会うために。

 時々彼に会いに行っていた私にはわかる。希空の母親だからか、彼の目が希望に満ちていたことに。

 嬉しかった。希空を失っても強く生きようとする彼を見ているのは、1人の大人として...いや彼の義理の母親として。

 でも、叶わなかった。病の進行には、彼も勝てなかった。

 安らかに眠っている彼の顔を見た時、私は娘と同じくらいショックを受けた。

 その顔は、とても17歳の姿には見えなかった。でも、彼の顔は幸せに満ちていた。満足してこの世を去ったのが、目を閉じている彼から感じ取れるくらい穏やかな顔だった。

 気が早いかもしれないが、私は2人が将来寄り添ってくれることを陰ながら応援していたんだよ。

 私たちの本当の息子になってくれることを願っていたことを君は知らないでしょ?

「さ、行きましょうか」

「あぁ、そうだね。2人が出会い、好んだあの場所に」

 夫が運転する車に乗り込む。今日は晴天。太陽が、雲に隠れることなく街全体を明るく照らしている。

 太陽に嫌われ、太陽を愛した私の娘。太陽に好かれ、太陽のように希空を照らしてくれた彼。

 太陽とは切っても切れない関係が私たちの中には存在する。

 いつまでもいつまでも忘れることのできない。忘れてはいけない、大切な2人の思い出が生きている私たちの中で深く共有されている。

 車内から映る外の景色は、不思議でたまらない。夏が終わって数週間しか経っていないのに、今年の夏のようなギラッギラとした輝きはない。

 木々たちも『我こそは!』と見栄を張っている木はなく、自然に身を任せるように葉を色付けている。

 意外とよく見てみると、私たちが普段生活をしている上で、気が付くことができる範囲は少ないのだと実感してしまう。

 今日も空は澄んでいる。青い空に細く伸びる一筋の飛行機雲が、消えかかりそうに空に浮かんでいた。