1時間近くかけて、コスモス畑の最寄駅に到着した。

 2人で来たのが、コスモスが旬の秋頃だった。秋に比べると格段に顔に触れる空気は何倍も冷たい。

 電車の中が暖房で暖かった分、外の空気が異様に冷たく感じてしまっているのだろう。

「さっむ。ま、ここから10分歩くし、その間に温まるか」

 外壁に囲まれているわけでもない、外の空気が筒抜け状のホームのため、駅を出るのはわずか数秒。

 階段を降りると、すぐに足を掬われる。むしろ、下に沈んでいる気がする。

 たった1時間の距離しか離れていないのに、こんなにも積雪量が違うのは驚き。

 電車に乗る前は、うっすらと地面に雪が積もっている程度だったが、今は余裕で靴が雪で埋もれてしまっている。

 スニーカーで来たことに後悔したが、今更もう手遅れ。靴はすっかり濡れてしまって気持ちが悪い。

 歩くことおおよそ15分。普段歩き慣れない雪のせいで、5分近く時間がかかってしまった。

 積もっている雪を避けるように、誰かが歩いた足跡が残っている道を歩いたが、気付くとズボンの裾までも濡れている。

 目の前に広がるコスモス畑らしき広大な土地。

 手短に入場を済ませ、園内に足を踏み入れる。数ヶ月前までは、ここにたくさんのコスモスが咲いていた。

 その光景を今でも僕の脳にはしっかり記憶として焼き付けられている。

 しかし、今の僕の視界に映っている景色はどこを見渡しても一面『雪』で埋め尽くされている。

 まさに、ただただ広い雪原の上に立っているかのよう。

「何にもないな。あんなにコスモスが咲いていたのが、嘘みたいだ・・・」

 一直線に丘まで伸びている遊歩道の上を歩く。遊歩道の上は整備されているのか、コスモスが咲いていた柵の向こう側に比べると雪の量は圧倒的に少ない。

 そもそもこの季節にコスモス畑を訪れる人の方が珍しいかもしれない。

 コスモス畑という名だけの場所に過ぎないのだから。

「大体この辺りか・・・ピンクのコスモスが咲いていたのは」

 希空が好きだったピンクのコスモス。あともう少し歩いたら、丘が見えてくるだろう。

 僕と希空が、出会った思い出の場所。僕の両親と同じ...出会いの場所。そして、君に恋焦がれた日々が始まった場所。

「希空もうすぐ着くよ。僕らの思い出の場所に」

 空から雪が再び僕の頭へと降り注いでくる。僕の肩に落ちては溶け、雫となって染み込んでいく。

 まるで、彼女が僕の再来を泣いて喜んでいるかのように感じられた。