病室の窓に映る景色は、白と黄色が一直線に平行線を描いている。

 地は一面が真っ白な雪景色に対し、空には眩い光を放つ太陽が顔を出している。

 幻想的な風景にうっとりと見惚れてしまいそう。何気ない日常の中にも、こんな綺麗な眺めがあるとは...

 いや、何気ない日常の中だからこそ、人々の心を麗し深く記憶に残すのかもしれない。

 ただの住宅街の一時の風景に過ぎないのに、僕の心は最も簡単に魅了された。

 特別な何かよりも、不変的な変わることのない日々の方が僕らは、感動を覚えるのだろうか。

 再び、ベッドの上に腰を下ろし、希空からのプレゼントと夢を袋から取り出す。

「なんだ・・・これ」

 ひとつは縦長の木箱。もうひとつは、ペンダントの先端に透明の筒状のキーホルダー。中には、白っぽい粉がみっちり詰め込まれている。

 先に木箱の方を手に取り、蓋を開ける。

「希空らしいよ。君にぴったりの花だからね」

 中に入っていたのは、一輪のコスモスのドライフラワー。

 壊れないようにそっと、指先で摘み鼻を近づける。ほんのりと香る匂いが、希空を思い出させる。

「今回は、ピンクだったか・・・あの時は黄色だった。もう、調べなくてピンクのコスモスの花言葉はわかっているよ。希空と2人でコスモス畑に行った時に、好きな色はピンクって言ってたからね」

 まだ鮮明に残っている記憶を隅々まで頭の中で描く。

 ピンクのコスモスに囲まれて幸せそうな顔をした彼女が、僕の脳を刺激する。

「ピンクのコスモスの花言葉は、『乙女の純潔』だよね。最高のプレゼントだ。一途に想い続けてくれてありがとう」

 壊れないように元の木箱の中へ戻す。

「さて、こっちが希空の夢の続きだよね」

 手に持つと透明の筒の中に入っている白い粉が、微かに振動と共に揺れる。

「この粉は、なんだ?希空の夢・・・飛びたい・・・もしかして、これは・・・」

 急いで病室に置かれている動きやすい私服に着替え、部屋を出ていく。

 生憎、病室に置かれたどの服も若者の服ばかりで、当然今の外見には見合ってすらいない。

 それでも、僕は駆け出していた。希空の叶えたい夢の続きが、僕にはわかってしまったから。

 多分だが、今の僕の見た目は60歳後半ぐらいだろう。

 でも、僕はもう気にしない。外へ出るのも躊躇わない。僕を突き動かしてくれたのは、いつだって希空だった。

 恥じる僕は捨てたんだ。だから、待っててよ希空。今すぐに君が待っている場所に向かうから。

 しんしんと降り積もる雪の寒さに身を震わせながら、僕は数ヶ月ぶりの外へと足を踏み出した。