「君には敵わないよ・・・ほんっとに」

 色々と突っ込みたい内容が満載の手紙だった。彼女らしいといえば、彼女らしい。

 自分がいなくなった後のことを考えているのも...僕が元気がなくなることも見越して手紙を書いたと思うだけで心が痛い。
 
 一体彼女はどんな気持ちでこの手紙を書いていたのだろうか。

 手紙の途中に書かれていた。『書くのが疲れた』と書かれた文章。

 きっと彼女はわかっていたのかもしれない。もうすぐ自分がこの世から旅立ってしまうことを。

 答えは永久にわからない。僕の憶測になるが、希空は僕より先に亡くなることを知っていたのではないだろうか。

 もちろん事故という形ではなく。病気によって、寿命が尽きることを。

 そうでなければ、突然彼女はこの世を去ったのに手紙など書けるはずもないのだから。

 様々な思惑が僕の頭を巡らすが、答えに辿り着くことはない。

 どれも僕の思惑でしかないのだ。

「なんでだよ。どうして、最後まで僕の弱い心に触れてくれないんだよ。僕のことを・・・もっと貶してくれよ」

 手紙には僕の笑顔のことしか書かれていなかった。この数ヶ月間彼女に見せることができなかった、僕の顔を。

少しは触れてほしかった。触れてくれれば、僕の後悔も少しは懺悔できたのに。

「どうして、そんなに君は優しいんだよ・・・なんで、僕の顔を見れずにこの世を去ったのに僕を責めることすらしてくれないんだよ」

 ポタポタと彼女の手紙に涙が落ちて、ボールペンで書かれた文字が滲む。

 散々泣いてきたのに、人間の体は涙が枯れることを知らないらしい。

 もし、今の僕の顔を彼女が見たら、どう思うだろう。ボロッボロに泣いている僕の姿を。

 間違いなく笑うに違いない。そんな気がしてやまない。

「僕だって、君の笑顔が大好きだったんだ・・・」

 彼女の命を奪っていた太陽の光が、僕の病室に鋭く差し込んでくる。

 久しぶりにこのカーテンを自分の手で開けた気がする。

 希空が亡くなってから、僕はずっと病室のカーテンを閉め切って生活していた。

 理由はただひとつ。太陽の光を遮断していると、希空に近づけるような気がしたから。

 自分でも馬鹿な考えだと思う。でも、どこにも彼女は存在していなかった。

 彼女の命を奪っていた太陽を遮断しても、彼女はどこにも...

「そっか・・・君は最初からそこにいたんだね」

 僕の目に映った太陽の光は、最後に見た彼女の笑顔と変わらないくらい黄色く街全体を照らし続けていた。