希空を最後に見た日から数日が経過した。依然、僕は前と変わらずベッドの上での生活。

 葬儀に出席した立花先生から聞いた話によると、3日前に希空の葬式が終わり、希空の体は焼かれたそうだ。

 泣いている生徒もいる中、一際大声で泣いていた女子生徒がいたらしい。

 たぶん、それは希空の親友だった小川未來だろう。話をしたことはないが、優しそうな元気な女の子だった。

 希空の親友としてもふさわしいくらい2人が、作り出す雰囲気は並大抵の仲では作り出せないものにも見えた。

 親友というよりも長年ともに過ごしてきた『家族』のようだった。

「僕は・・・どうしたら、いいんだろう」

 僕の命だって、残りわずかしか残っていない。日を追うごとに僕の体の皺の数は格段に増えている。

 顔だけでなく、足や腕は痩せ細り、お腹の肉は萎んでいかにも病人らしい体つきへと変貌してしまった。

 髪の毛も前まで真っ黒だったのが、今は黒よりも白い髪の毛の方が多いかもしれない。

 希空を最後に見た日から、僕は自分の顔を見ることが怖くはなくなった。

 どんなに抗っても僕の病が止まるわけではない。もう僕の病は太陽の光をいくら浴びていようとも止まることはないのだと、先生からは告げられた。

 もう受け入れて余生を過ごすしかないのだと...

 鏡で自分の顔を見るたび、僕は思う。この命はあとどれくらい持つのだろうと。

 胸にぽっかり空いた喪失感だけが残り続ける。埋まることのない穴。

 ぼーっと過ぎていく日々を何日も過ごしている。時間は止まってはくれない。こうしている間にも確実に、未来へと進んでいる。

 僕らの命の火が消えない限り、一生関わっていく必要のあるもの。

 ベッドの脇にある棚の上から2番目の引き出しから、萎れた一輪の黄色いコスモスの栞を取り出す。

 あの日、彼女からもらった大切な宝物。どうしても残しておきたくて、無理やり母に残してくれるように頼んだのを思い出す。

 大事に手に包むように触れる。僕と彼女を繋いでくれた一輪の黄色いコスモス。

「確か、黄色いコスモスの花言葉は・・・あった」

 携帯で検索をかけるとすぐさま、浮上してくる情報たち。

「んーっと、花言葉は・・・『幼い恋心』・・・か。なんだよ、そのまんま僕らのことじゃないか。希空は意味がわかっててこの花を僕にくれたのかな。そうだとしたら、恐ろしい子だね」

 "コンコン"

 感傷に浸っている僕の目を覚まさせてくれるような、ドアをノックする音に体が反射して背筋が伸びる。

「どうぞ」

 先生だと思い、カーテンを開けてその人物が病室に入ってくるのを待っていた。

 その人物が先生以外だとは、微塵も思ってはいなかった...