「希空・・・やっと僕は初恋の女の子を見つけたんだよ。実は、初めから希空があの時の女の子だってわかってたんだ。君の気を引きたくて、わざと目立つような行動ばかりしたんだよ」

 今年の夏先のことを思い出し、懐かしみながら彼女へと語りかける。

 天井に張り付いている蛍光灯が、"ジージージー"と今にも光を失ってしまいそうな音。

「初恋の女の子を忘れるわけがないよ。希空は、忘れてしまっていたみたいだけど、僕はちゃんと覚えていたよ。希空ともう一度あの丘に行けば、思い出すかなと思ったけれど、違ったみたいだったし・・・正直ちょっとだけ悲しかった。でも、こうして希空とまた出会えて、共に流れる時間を共有できて嬉しかったよ。ありがとう希空」

 気付けば涙は流れるのをやめていた。

 これで、希空の顔を見るのは最後になるだろう。きっと、僕は希空の葬式には出席することができない。

 出席したい気持ちは山々だが、この容姿では誰も僕が同い年の夜瀬太陽だと気付くものはいないだろうから。

 生徒席にこんなおじさんの姿をした自分がいたら、間違いなく周りは戸惑ってしまう。

 だから、僕は今日この場で君とお別れをする。

「希空の夢・・・僕には果たせなかった。空を飛びたいって夢を・・・でも僕は諦めない。君を必ず、空へと飛ばしてみせる。だから、空から僕の残りの生き様を見ててほしい。無事達成できたら、僕のことを迎えに来て。僕も長いわけじゃない。それまでのお別れだよ。希空、ずっとずっと前から僕は君のことが好きでした。いや、好きだよ。今もこの先も僕には君しかいない。最後にこれだけ言わせておくれ・・・」

 希空との別れが恋しい。ここを出てしまえば、僕はもう希空を見ることはできない。次に会うとしたら、そこはこの世界ではないだろう。

 スーッと深く息を吸い込み、ゆっくりと時間をかけて吐き出す。

「愛してるよ希空」

 僕の愛の告白は、彼女の耳に届くことはない。でも、彼女ならきっとどこかで僕の声を聞いていることだろう。

 そうであってほしいと願いながら、横たわる彼女の首にピンクのコスモスが光り輝くネックレスをつけた。

 そーっと静かに彼女の顔に白い布を被せる。

「それじゃ、またね」

 『またね!』

 そんな声がどこからか僕の耳に聞こえた気がした。あの丘の上で、僕らが初めて出会い別れた時のように。