「ねぇ! おとうさん!すごいよ、おはながたくさんさいてるよ!」

「太陽。この花がなんの花かわかるか?」

「わかんない!」

「これはな、コスモスって花なんだ」

「こすもす?」

「そうだ。コスモス。別名、秋桜。秋に咲く桜のようだから、秋桜とも言われているんだ」

「ぼく、さくらはしってる!このまえ、みんなでおはなみ?をした!」

「そうだったな。綺麗だったな。次見れるのがまた来年ってのが待ち遠しいよ」

「うん! きれいだった! でも、こすもすもきれい!」

 風に揺れるコスモスに目を奪われる。ゆらゆらと揺らめく姿に、僕の首も左右に揺れる。

 隣にいたお父さんの視線の先には、丘の上でレジャーシートを敷いて昼食の準備をしているお母さんの姿。

 何ひとつ不自由のない、幸せを絵に描いたような家庭だった。

 優しい母親に、物知りな父のもとで育った僕は、常に好奇心旺盛な子供だったと思う。

 気になることがあるとすぐに、父に聞いていたのを今でも覚えている。

「父さんはな、コスモスが1番好きな花なんだ」

「えー、そうなの! いっぱいおはながあるのに?」

 幼い僕であったが、この世界中にたくさんの種類の花が存在することは、家に置かれた図鑑で知っていた。

 だから、お父さんがコスモスが1番好きだと言ったのが無性に気になったんだ。

 どうして花で溢れている世界で、1番と決めつけることができるのだと。

「コスモスは父さんと母さんを巡り合わせてくれた花だから・・・父さんと母さんが初めてあった場所はここだったんだ。たまたま高校生の時に友達とここに遊びに来た時に、母さんを見つけて父さんは一目惚れしたんだ。それが、出会いのきっかけだったんだよ。あの時、ここで母さんに出会えていなかったら、太陽も生まれていなかったかもしれない」

 懐かしそうに微笑んでいる父の顔は優しさそのものだった。

「えー!そうなんだ。2人ともありがとうね」

「どうしてありがとうなんだ?」

「ぼくとであってくれてありがと!」

 その言葉に父の顔は破顔した。あんなに幸せそうに笑った父を見たのは、最初にも最後にもこれだけだったと思う。

「こちらこそだよ、ありがとな太陽!」

「うん! ここは、2人のおもいでのばしょ?ってやつなんだね」

「あぁ、そうだとも。もしかしたら、太陽もここが大切な思い出の場所になるかもしれないな」

 この言葉の意味を僕はよく理解できなかった。今となっては、痛いほどに理解できてしまったのだけれど。