雪はさらに強さを増し、風も吹き荒れ始めてきた。
この天気の中でも、大型商業施設の建設は中止になることはなく、見上げた遥か上の方で、点として見える何人かの人が働いている姿が目視できる。
休んでいる暇などないのかもしれない。完成が期待されている分、遅らせるわけにはいかないというプレッシャーもあるのだろう。
でも、正直この天気の中で建設をするのは素人の私から見ても、得策とは言えない。
視界不良の中で、高所での建設は命取りにもなってしまう。いくら安全器具をつけているとはいえ、相手は自然。何が起こるかなど人には予測すらできない。
ゆらーりと揺れる鉄骨が、上空にぼやけて見える。
「あれ、大丈夫なのかな。落ちてきたりとか・・・えっ」
一瞬だった。巨大な鉄骨が私の頭上へと落下してくるのが、見えてしまった。
体が動かない。恐怖のあまり足がすくんでしまい、足が地に突き刺さったかのようにピクリともしない。
スローモーションに落ちてきていた鉄骨が、私の視界を埋め尽くす。
全身に激痛が走った。意識が朦朧として、保っていないと今にも気を失ってしまいそう。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私の周辺から、キーンと甲高い悲鳴があちこちから溢れ出す。
「早く、救急車と警察を!」
周囲は慌ただしく、人が動いているのに私は動くことすら許されない。
体が、圧迫されて息を吸うことすら苦しい。お腹あたりが焼けるような痛みと足は全く感覚が感じられない。
痛いなんてものじゃない...毎秒刺されているかのような感覚が、上半身を駆け巡る。
「大丈夫か!!!今助けが来るか・・・これは・・・もう」
おじさんが私の様子を見て絶句しているのだろうか。耳だけはかろうじて聞こえるが、おじさんの声が私の状態を分かりやすく物語っている。
多分、私は助からない...
「た・・・た・・い・・・よ・・・う」
「たいよう?太陽は、雲で・・・」
視界と共に声も音も段々と聞き取りにくくなっていく。
「ち・・・ちが・・・う」
「お嬢ちゃん、気を確かに持て!諦めるな。必ず助けが来るから。もう少しの辛抱だから!」
雪が溶けゆくように、私の意識も闇の中へと溶けてしまいそう。闇の中に光る一筋の光。
その先に佇む1人の男の子。太陽のような笑顔で私のことを見つめている。手には一輪の黄色いコスモスを大事そうに抱えている。
綺麗なコスモス畑に囲まれている情景が、思い返される。確かに、私は昔あの場所で誰かに会った。同年代くらいの男の子が何かを探しているのを見かけて、話しかけた記憶が蘇る。
その男の子に、一輪の黄色のコスモスをあげた記憶が...
(そっか。あれは太陽だったのか。やっと思い出した。太陽は私だと気づいていたのだろうか。あの時の女の子が私だってことを。こんな時に思い出してしまうなんて・・・)
私にとっての人生最後のクリスマスプレゼントは太陽との温かい記憶だった。忘れていた大切な記憶。
(私の初恋は、ちゃんと実ったんだね。よかった・・・ごめんね、太陽。君を突然残してしまって・・・またね)
ゆっくりと私は暗闇の中へと堕ちて行った。誰もいない孤独な世界へと。
白く綺麗に降り積もった雪を徐々に侵食していく鮮血が、周囲の雪を染めゆくまで時間はかからなかった。
この天気の中でも、大型商業施設の建設は中止になることはなく、見上げた遥か上の方で、点として見える何人かの人が働いている姿が目視できる。
休んでいる暇などないのかもしれない。完成が期待されている分、遅らせるわけにはいかないというプレッシャーもあるのだろう。
でも、正直この天気の中で建設をするのは素人の私から見ても、得策とは言えない。
視界不良の中で、高所での建設は命取りにもなってしまう。いくら安全器具をつけているとはいえ、相手は自然。何が起こるかなど人には予測すらできない。
ゆらーりと揺れる鉄骨が、上空にぼやけて見える。
「あれ、大丈夫なのかな。落ちてきたりとか・・・えっ」
一瞬だった。巨大な鉄骨が私の頭上へと落下してくるのが、見えてしまった。
体が動かない。恐怖のあまり足がすくんでしまい、足が地に突き刺さったかのようにピクリともしない。
スローモーションに落ちてきていた鉄骨が、私の視界を埋め尽くす。
全身に激痛が走った。意識が朦朧として、保っていないと今にも気を失ってしまいそう。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私の周辺から、キーンと甲高い悲鳴があちこちから溢れ出す。
「早く、救急車と警察を!」
周囲は慌ただしく、人が動いているのに私は動くことすら許されない。
体が、圧迫されて息を吸うことすら苦しい。お腹あたりが焼けるような痛みと足は全く感覚が感じられない。
痛いなんてものじゃない...毎秒刺されているかのような感覚が、上半身を駆け巡る。
「大丈夫か!!!今助けが来るか・・・これは・・・もう」
おじさんが私の様子を見て絶句しているのだろうか。耳だけはかろうじて聞こえるが、おじさんの声が私の状態を分かりやすく物語っている。
多分、私は助からない...
「た・・・た・・い・・・よ・・・う」
「たいよう?太陽は、雲で・・・」
視界と共に声も音も段々と聞き取りにくくなっていく。
「ち・・・ちが・・・う」
「お嬢ちゃん、気を確かに持て!諦めるな。必ず助けが来るから。もう少しの辛抱だから!」
雪が溶けゆくように、私の意識も闇の中へと溶けてしまいそう。闇の中に光る一筋の光。
その先に佇む1人の男の子。太陽のような笑顔で私のことを見つめている。手には一輪の黄色いコスモスを大事そうに抱えている。
綺麗なコスモス畑に囲まれている情景が、思い返される。確かに、私は昔あの場所で誰かに会った。同年代くらいの男の子が何かを探しているのを見かけて、話しかけた記憶が蘇る。
その男の子に、一輪の黄色のコスモスをあげた記憶が...
(そっか。あれは太陽だったのか。やっと思い出した。太陽は私だと気づいていたのだろうか。あの時の女の子が私だってことを。こんな時に思い出してしまうなんて・・・)
私にとっての人生最後のクリスマスプレゼントは太陽との温かい記憶だった。忘れていた大切な記憶。
(私の初恋は、ちゃんと実ったんだね。よかった・・・ごめんね、太陽。君を突然残してしまって・・・またね)
ゆっくりと私は暗闇の中へと堕ちて行った。誰もいない孤独な世界へと。
白く綺麗に降り積もった雪を徐々に侵食していく鮮血が、周囲の雪を染めゆくまで時間はかからなかった。