「行ってきます!」

 玄関で見送りをしている両親に挨拶をして、玄関のドアをゆっくりと閉める。

 すぐさま日傘をさして、太陽の光を遮断する。光だけではなく、雪も遮ることができるのは一石二鳥。

 住宅街の家々の屋根に積もっている雪を見る限り、昨夜はかなり雪が降ったのだと目に見えてわかる。

 家の屋根だけではなく、自然の木々たちにも雪が降り積もっている。足で軽く突いたら、一気に頭に降りかかってきそうなくらい不安定。

 駅前に向かうにつれて、交通量が増えていくと同時に雪解けが著しい。

 車が走っている分、車道の雪はほとんど溶けかかり、車道の脇には茶色く汚れた雪の塊が溜まっている。

 それに比べ、歩道はアスファルトが見えないくらい白を基調とした地面。

 おまけに降り積もった後に多くの人が通ったためか、踏みつけられた雪は固く凍って、滑りやすくなってしまっている。

 私の友達も去年の冬、通学中に滑って腕を骨折したらしいので注意深く歩かないといけない。

 転んだら、その時私の命は太陽に焼き尽くされてしまうのだから。

「綺麗・・・」

 街の中心部はすっかりクリスマス仕様に染まり尽くしている。

 どこを見渡してもお店からは赤と緑の装飾を施された商品が、店頭に並べられている様子。

 これが、夜になったらもっと輝きが増すのだろう。

 ライトアップされたイルミネーションは幻想的で、カップルの気持ちを加速させるにはうってつけ。

 きっと今夜の公園のイルミネーションの元には、一体何組のカップルが集結するのか気になるところ。

 数えきれんばかりのカップルが、ロマンチックなムードを全開にして、イルミネーションそっちのけで目の前の相手に目が奪われてしまうに違いない。

 日中の景色ですら、目を奪われてしまっている私に夜は少々刺激的かもしれない。

 夜の暗さの中でライトアップされた光が、隣にいる彼氏彼女顔をぼんやりと照らす。それだけでうっとりしてしまうのは間違いない。

 "ピコン"

 不意になった携帯の通知音。携帯を傾け、顔認証でロックを簡単に解除する。

『今日何時くらいに来れそう?』

 メッセージの相手は、私が今妄想で隣にいたばかりの彼だった。

『そうだな〜、13時頃には行けると思う』

『わかった。待ってるよ』

 うさぎの了解スタンプを送る。即座に既読がついたことに安心感が増す。

 ベッドの上で携帯を眺めている彼の姿が、頭の中で浮かんでは消えを繰り返すのをやめられない。

 消えてしまうのは、彼の顔がどんな表情なのか読むことができないから。

 でも、それは今日でわかるんだ。彼の顔だけが塗りつぶされた真っ黒な部分に色が付くのは、楽しみ以外の感情は存在しなかった。