今日の予定は、午前中のうちに太陽へのクリスマスプレゼントを駅前で購入して、その後は病院に向かう計画。

 昨日の夜、彼から送られてきたメッセージに私は心を躍らせた。

 携帯で彼からのメッセージを開く。何度も寝る前に見返した文章。

『メリークリスマス!今日は素敵な1日にしようね。それと、今日はカーテンなしで希空と話したい。』

 たったこれだけの文章なのに、何回も何十回も読み直してしまったのは、きっと太陽の顔を見れる嬉しさが理由だろう。

「希空! ほら急がないと、彼と会う時間減っていくわよ」

「そうだった!」

「それにしても、今日の希空可愛いわね。自慢の娘だわ〜」

「ありがと!」

 今日のコーディネートは、ママにしてもらった。ちょっと大人な女性風な格好をしてみたかったので、頼んでみたところ快くオッケーと承諾してくれた。

 ちなみに上から、黒のタートルネックのセーター。下は、白のフレアスカート。その上から白のチェスターコートを羽織っている。

 ちょっと大人の女性に近づいたかはわからないが、気持ちは20代前半くらい。

 もちろん足元はブーツなので、素肌が出ているところがないため太陽を避けるのにも対策はバッチリ。

「どう、似合う?」

「当たり前でしょ! ほとんどが私の服なんだから!あ、私のだから汚したり破いたりしないでよね」

「破るわけないでしょ!」

 玄関でブーツに足を入れ、等身大の鏡で全体像を確認する。服だけ見ると大人に見えるが、顔のあどけなさはやはり高校生の面影を感じさせる。

「今日の天気予報だと、お昼近くから雪が強まるらしいから気をつけるのよ」

「大丈夫だよ。日傘さえさしていれば、私だって普通の女の子なんだから」

「まぁ、そうだけど。ほら、最近は物騒だし何があるかわからないから、油断はしないこと。いい?」

「うん。わかってるよ」

 リビングの扉が少しだけ空いている。少しだけ空いた隙間からこちらを覗くひとつの影。

 うちでそんなことをするのは、1人しかいない。

「パパ、出ておいでよ」

 私の声にママの顔が、曇り始める。怒っているのではなく、呆れている顔。

「あぁ〜、いいの?パパ。大事な大事な愛娘が出かける前に、お見送りしなくて」

 隙間から除いていたはずのパパが血相を変えて、私の前に走り込んでくる。

「だ、ダメに決まってるだろ!せめて、抱き締めさせてくれ」

「はぁ〜?何も今じゃなくていいでしょ」

 さらに顔を顰めるママ。その横で必死にせがんでいるパパ。側から見たら、仲がいいのか悪いのかわからないように見えるだろう。

「いや、今じゃないとダメな気がする!」

「いいよ、それくらい。その代わり、ママの服に涙とか鼻水はつけないでよね。怒られるのは、私だから」

 太く温かな腕が私の体を優しく包み込む。フワッと香るタバコの匂い。

 私はパパから香るタバコの匂いが昔から好きだった。タバコの匂いが好きというわけではないが、パパのタバコの匂いだけは特別だった。

 懐かしい匂いが私の鼻をくすぐる。

「希空、気をつけてな」

「うん。帰り遅くなりそうだったら、迎えにきて欲しいな」

「必ず連絡しな。すぐに迎えにいくから、スピード出してでも」

「それはやめて。危ない」

「はい・・・」

「全く玄関で親子揃って何やってるんだか・・・呆れるわ。でも・・・」

 パパとは反対の方から手を回してくるママ。タバコの匂いと甘いフローラルの香りが混ざってなんだか変な気分。

 3人で抱き合っている姿は異様だけれども、私の心は十分すぎるくらい満たされた。

 この温まった熱を冷ますことは、雪降る冬の季節でも容易ではないだろうな。